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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
追憶の惨劇と契り篇
48.静寂からの始まり
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と彼はバランスを崩して倒れる。
「怪我人に叩く奴があるか」
「あんたが人の話を聞かないのが悪いのよ」
当たり前だ、というように彼女は悪気のない顔をしている。壁を支えにして海原は立ち上がった。
その光景を見て柚木は心地良さを感じた。ここにいる全員が伝説の吸血鬼の力を受け継いでいながらこんな夢のような日常をおくれるのだから。
しかしそんな夢は一瞬のうちに消え去った。
空気から伝わってくる肌を刺すようなピリピリとした感覚。
その感覚は建物などという人工的に作り出された壁などは関係ないのだと改めて思い知らされる。
「ついにお出ましのようね」
美鈴が窓の外を眺めながら憎々しげに呟いたのだった。
轟音が大気を引き裂き、大地が震える。
その正体は膨大な魔力をその身に宿した塊。真祖すらも殺すと言われている伝説の吸血鬼の眷獣……それも二体もだ。
出現によって起こされた衝撃波は街を一望できる高さにあり、少し離れた位置にある神社だ。この地区では一番大きな神社の落下防止の手すりの上に黒猫が一匹。
「ずいぶん派手にやらかしてくれるね、
吸血鬼
(
かれ
)
らも」
しなやかな体つきの美しい黒猫が呟いた。
「式神で来たのですか、
縁堂緑
(
えんどうゆかり
)
」
喋る黒猫が当たり前のように制服姿の少女は口を開いた。彼女は獅子王機関三聖の一人、閑古詠だ。
古詠が呼んだ縁堂は、黒猫を操っている式神使いの名だ。
「この方が楽なんでね」
黒猫は手すりから軽快なステップで降りると四足歩行で歩んでいく。
そちらの方向には、同じ制服を着た数十人の少女たちが綺麗に整列していた。しかしその背中には金属製の銀色の剣や弓などが背負われていた。彼女らは魔導災害や魔導テロを阻止するための政府の国家公安委員会───獅子王機関。その下部組織である高神の杜で攻魔師になるための訓練をしている見習いたちだ。
「いいかい、昨日と同じようにあんたたちの役目は一般人の避難だよ。本当に必要なとき以外は戦闘するんじゃないよ」
黒猫の輝くような金色の瞳は一人の少女へと向けられる。長い綺麗な黒髪に可愛らしい顔立ちの少女。しかしその顔には無数の小さな擦り傷などが見える。彼女は昨日、基本禁止とされている戦闘に介入して危うく命を落とすところだったのだ。
視線を向けられた少女は、少し震えたような声で返事をする。
「それと万が一“
神意の暁
(
オリスブラッド
)
”と遭遇した場合は迷わず逃げるんだよ。天地がひっくり返ろうがあんたたちじゃ勝てるような相手じゃないからね」
それほど“
神意の暁
(
オリスブラッド
)
”と呼ばれる吸血鬼は絶大なまでの力を持っているのだ。
少女たちから怯えるような雰囲気が漂ってくる。
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