12話 「生命を取り落す時」
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セナリーだ。マーセナリーは屑がやる仕事。そして俺は、戦いのスリルに病み付きになって魔物を殺してきた。頭の中では記憶の為だの何だのとほざいてはいるがその実――本当はこんな命懸けの戦いを求めている」
どくん、と心臓が歓喜の雄叫びを上げた。
身体が熱い。全身の血流が暴走しているようだ。
吐き出す息が熱い。風など気にもならぬほどの熱が、全身を揺らす。
湧き上がる衝動に突き動かされるように、剣を構えた。
身体と剣が一体となり、足を通して大地の力を借りる。
右手に剣を、左手は柄に。敵と右肩の直線状に鍔が来るように、一直線に構える。
俺の記憶の中でも最も古い、最も基本的な構え。
「……俺の目の前でその構えを取るか。――『30年前』のあいつと今のお前が同じかどうか、試してやるッ!!」
膨大な風の渦が急速に収縮し、風の爆弾と化した力がクロエの左足一本だけに収束されていく。
竜巻をそのまま飛ばすのではなく、全身に衣のように纏いながら物理運動エネルギーをありったけ継ぎ込んで、荒鷹より速く、竜巻よりも強く身体を加速させる風を更に追い風で加速させ、身体そのものを斬撃に化けさせる。
吹きすさぶ疾風を纏いし其の姿、風の化身の如く。
恐らくはもっと確実な殺し方があいつにはあった筈だ。それこそ竜巻そのものでこちらを町ごと吹き飛ばす方法の方が楽だったろう。それでもあいつが正面からの一撃に拘ったのは、絶対の自信か、それともこちらに態と合わせているのか。どちらでも構わない。
いや、むしろ本気だからこそ滾るのだ。本気だから、こちらも本気をぶつけてみたくなる。
脳裏が激しく疼いた。だが、もう疼きも気にならないほどに意識は正面へと注がれていく。
この魂を焦がす高揚の中でだけ、疼きと渇きを忘れられる。
「お前が俺の渇きを癒せるのか………全霊の一撃で確かめさせてもらおうかッ!!!」
雄叫びと共に、足を踏みこむ。大地を割るほどに深く、強く、疾く。
その力を体のラインを通して、剣先のただ一点だけに集中させ――森羅万象を斬る。
俺の扱う流派も知れない剣技の中で、唯一必殺剣と呼べる、乾坤一擲の斬撃。
「ぶった……斬れろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
「ヒトは風には勝利できない。勝利できるのならば――その時は、貴様の化けの皮を剥いでやろうッ!!」
音速を超えた二つの刃が、激突した。
激突の衝撃で、広場に接していた塀や屋根にまで亀裂が入り、押しのけられた空気が暴風となって広場に存在するありとあらゆるものを天高らかに吹き飛ばし、それでもなお殺しきれないエネルギーが広場の石畳を悉く粉砕していく。
たった一度の攻防が、その余波が、第四都市の広場一つを丸ごと陥没させた。
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