11話 「告死の黒翼」
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黒服の一部だった。当人はこの狭い室内で曲芸のように跳ねて、部屋の端にあった小机の上に飛び乗る。一瞬の奇襲もさることながら、それを間一髪で躱す体裁き。一朝一夕の物ではない。
屋内での戦闘や暗殺に慣れている。外見は子供でも、使っているのは魔物ではなく対人でこそその実力を発揮する本物の殺人技術だ。
「その剣筋、あの気障ではない。だとしたら………ッ!!」
その剣に何かを確信したクロエの顔に、どす黒い殺意が漏れ出す。
その気に触れた瞬間には首を切り落とされてる、と錯覚するほどの殺気。今ので宿の全員がコイツの存在に気付いただろう。
クロエの持つ剣が一瞬視界からぶれ、宿の外に面する壁がばらばらと崩れ落ちる。流水のようにしなやかに、そして閃光のように瞬く剣筋。あの一瞬で碌に音も立てずに壁を切り裂いたのだと気付く。
「付いて来い。ここでは互いに都合が悪いだろう」
「………いいだろう。誘いに乗ってやる」
彼の関心は、完全に本とファーブルから俺に逸れたらしい。背を見せたクロエは瞬時に外に飛び出す。
例えここで俺が追いかけずとも、彼は既にこちらの住処を発見している。下手をすれば人質や暗殺で俺以外が狙われる。ここは打って出るしかない。俺はテレポットに段平剣が入っているのを確認し、崩れた壁から身を乗り出す。
「ぶ、ブラッドさん!!」
「あっちが一人で動いているとは限らない。念の為に戦いの準備くらいはしておけ。ネスの説得任せたぞ」
それだけ告げて、見失うまいとその黒翼を目で追う。
あいつは俺の何かを知っているような物言いをしていた。その真偽を確かめないままに指をくわえて待つ気はないし、相手が六天尊だろうがその後継者だろうが関係ない。
俺は逃げる事の出来ない記憶の残滓と決着をつけるため、鎧もつけなまま壁の外へ跳躍した。
= =
ファーブルはその後ろ姿を、追う事も止めることも出来ないまま見送ってしまった。
「無茶だ……刀の切り傷は下手をしたら内蔵に届いてるんだぞ。出血だってあんなに……」
彼は見ていた。
それだけで致命傷になりそうな斬撃の後と、そこから溢れ出る赤い血を。
その場で出血多量になってもおかしくない量だったのに、彼は何故躊躇いもなく飛び出したのだろう。最低でも、今すぐに止血だけでもしておかなければ命に係わる段階だと、彼なら分かった筈だ。
だが、分かっていて行ったのがブラッドなら、分かっていて止められなかったのが自分。
殺されかけた瞬間、腰を吹かしそうになるほど体が震えた。だが、奇襲にまるで動じないまま平静を保っていたブラッドがいなければ、今頃みっともなく部屋から逃げ出していただろう。前から命が惜しくないのかと思う事はあったが、今日ほど彼にそ
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