10話 「襲撃の風」
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ゾムは体組織が鉱物に近いだけあって老廃物の溜まり方が他の種族より極端に遅いらしいのだが。
カナリアの話に耳を傾けたナージャは、自身の記憶を探る。
「ふーん、六天尊かぁ………あんまり知らないけど、アタシ達有角族の間では六天尊と言えば『黒翼の鬼儺』が有名だね」
「黒翼……ということは翼種ですか?どうして翼種を有角族が……」
「古代の伝承ではさ……有角族は鬼の末裔だって言われてるんだよね。だから鬼儺って名前は恐れられてんの。古い言葉で鬼を追い払うって意味だから」
「へー、私はてっきり鬼さんの仲間って意味かと思ってました」
長風呂をしないカナリアはせっせと自分の身体を洗いながら抜けた返事を返す。神秘術や物作りでは豊富な知識を持つ彼女だが、言語や文学面はかなり疎い。かくいうナージャもそれほど詳しいわけではない。彼女の知識も又聞きで得たものやブラッドリーから教えてもらったものが殆どだ。
だが、元々捨て子である彼女にも拾われる前から覚えていることはあった。
「鬼儺が鬼の仲間なんてありえないよ。だって昔から悪さをすると『悪い鬼の子は鬼儺に首を取られる』って子供の頃から言われてたもん……」
「く、首を?なんで戦争を終わらせた英雄がそんなに怖い扱いを受けてるんですか!?」
「ああ、それには謂れがあるんだ」
長湯で温まった筈の身体がちょっとだけ冷える。それだけ幼い頃のナージャにとっては、それは怖い話だった。
「退魔戦役の開戦から間もなくして現れた黒翼のクロエは、国際会議の場でお偉いさんの目の前に二つの『生首』を持ってきたんだよ……ちなみにその頃のクロエはまだ年端もいかない子供だったそうだ」
「うぇ……な、生首……!?」
ヒトの生首を掴んで現れる子供を想像したカナリアは、その恐ろしさと残虐性に思わず顔を引き攣らせる。周囲が称賛するものだからてっきりもっと正義らしいのだと思っていたら、正義どころか完全に悪としか思えない。
「その片方はヒトに近い姿のハロルドの物だった。そしてもう一つは――当時国際指名手配されていた盗賊団『百鬼眷族』の首魁のものだった」
「百鬼……あ、もしかしてその人も有角族だったんですか?」
「ああそうさ。鬼の強さにあやかって威張っていたのが運の尽き。しかもクロエはその場でこう言ったらしい――自分は罪を犯した鬼と、人の心に住む鬼の首を狩る殺し屋だ、ってさ」
有角族では罪を犯した者はいずれ鬼へと堕落すると言われている。故に、有角族はその言葉にひときわ過敏に反応し、今やクロエは恐怖の対象のように扱われている。
生きながらにして恐怖の対象。英雄にして反英雄。
ひとつだけ当時の連合が理解したのは、この少年が貴重な戦力になるという事実だけだった。毒を制するために、猛毒を抱え
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