10話 「襲撃の風」
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鋭く、深い。一瞬意識が揺らぐのを感じながら、歯を食いしばって意識を手放すまいと掴みとる。
これでもし俺が庇わなければファーブルは間違いなく即死だった。
同時にその攻撃が薄く鋭い刃物であること――つまり刀か何かだと直感して振り返る。
その斬撃を繰り出したのは、黒い髪の少年だった。
外界全てを拒絶し、闇に溶け込むような黒ずくめ。髪の隙間から覗く翡翠色の瞳には感情らしい感情が削ぎ落とされたように冷たく、その手には銀色に輝く刀が握られている。
静かな、とても静かな。
まるで木陰の暗闇から死神が這い出てきたような異様な存在感。
そして、その背中に生えるは――月明かりに照らされ美しくも不吉光沢を放つ、黒い翼。
直後、今までにないほどに強い既視感が脳を揺らした。
疼く頭を抑えながら、俺は焦燥に駆られるように問うた。
「お前は――誰だ」
痛みから自然と噴き出る脂汗を浮かべながら、少年を睨みつける。
その質問に、少年は透き通るような声で淡々と答えた。
「アサシンギルド『鬼儺』が統領――クロエ。その禁書、抹消する」
少年の背中から、烈風が吹き荒れた。
『おお、坊よ。そんなに離れた所におらんでこっちへ来ればよいじゃろうに』
『……俺を坊と呼ぶなと言ったはずですが?』
『そうは言ってものう。おぬし、鏡を見てジンオウと見比べてみぃ。女子と見紛うぞ?』
『体の大きさは、俺には必要ない。あの筋肉馬鹿と一緒にするな』
『はぁーやれやれ、わしらの仲間にはどうも協調性に欠けたり変な奴が多いのぅ。まともなのはお前さんくらいじゃ。のう、―――?』
『―――、貴方も見ていないでご老体に何か言ったらどうです』
老人と少年が、俺の方を向いた。
これは――これは擦れていながらもぼんやりと見える、俺の過去。
俺が見て、俺がまだ記憶を持っていた頃の風景。
その風景にいた少年と目の前の少年が、重なる。
――この少年を、俺は知っている?
= =
「六天尊?」
「うん。なんかブラッドさんとファーブルくんがね?その話をしてたの」
湯煙が立ち込める湯あみ場の浴槽で、ナージャは体を洗っているカナリアに聞き返した。
褐色の肌に水滴を滴らせるカナリアの姿は、その低身長と童顔を抜きにしてもどこか色香を感じさせる。が、カナリア自身は風呂が好きではないらしく、放っておくと一週間近く入らない事もある為強制的に入れさせられている。
彼女が初めてこの『泡沫』に訊ねてきたときなど、まさに1週間近く水浴びすらしていなかったため悲鳴を上げそうになったのはナージャの記憶に新しい。とはいえガ
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