10話 「襲撃の風」
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わばらせた。だが、言わねば話が進まないと自分に言い聞かせるように胸を撫で下ろしたファーブルは、ゆっくりと答えた。
「この本によると、その……8人目は連合を裏切ったらしいのです」
「連合を……ヒト種を、か?」
「はい。彼はハロルドをも討ち取る凄まじい剣士だったらしいのですが………ある日、自分の居た陣営の兵士や武器職人を皆殺しにして行方をくらましたそうです。その後の足取りは不明。彼が去った後には、血文字で『我はエレミアの代行者、ステュアートなり。我、女神の嘆きをその血を以って汝らに伝えん』と残されていたそうです」
「ステュアートといえば……」
「ええ。ヒトの歴史上で最初に異端認定された宗派です」
世間の公表できない訳だ、と思う。
エレミア教女神派派生の異端宗派、スチュアート派。
その存在はいつ異端とされたのかさえ不確かなほどに昔に誕生した。
その教義や教えの詳しい内容は、もれなく異端思想として徹底的に弾圧されたために全くと言っていいほど残っていない。だが、現代に至ってもまだその名を名乗るテロリズムが起きている事を考えればその悪名の高さが伺える。
ステュアートとは、『女神の隣人』という意味を持った古代言語だ。同じ女神を崇拝するそれが何故テロリズムに訴えているのかは謎に包まれている。
だが、ひとつ確実な事があるとすれば――ステュアート派を名乗るという事は、エレミア教信者の全てを、事実上の世界を敵に回すに等しいという事である。
まさかハロルドまでをも打倒したヒト種側の英雄が実は異端宗派であり、しかも味方を惨殺した末に逃げ出して未だに野放しなどと超国家連合が堂々と発表できる筈もない。そんなことが公になれば連合の信頼は地に落ちる。
しかも彼は六天尊と並んで戦っていた実績がある。こんな事実が出回れば、未だ世界中で活動していると言われるステュアート派にどのような刺激を与えるか分かったものではない。
しかし――脳裏を何かが蠢くような疼きが、強くなっている。
その本の先にもっと自分が知るべきものが隠されているような、直感。
俺は彼をねぎらうと共に、その書物を借り受けようと思って立ち上がり――不意に、風が髪を靡かせたきがした。
窓も開けていないしドアも締まっているこの空間で、風?
第六感がその異常に警鐘を発し、周囲に意識を巡らす。
この部屋になにか異常はないか――
――刹那、殺気。
「ッ!?」
その瞬間、弾かれるようにファーブルを庇いながらテレポット内の細剣を引き抜いた。
だが剣は間に合わず、庇った背中に衝撃が走る。遅れて痺れるような痛みと共に、熱い血液が流れだす感覚。
マーセナリーになってから様々な傷を負ったことがあるが、その傷は今までに受けたどれよりも
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