10話 「襲撃の風」
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、審問会を強行的に突破して都市を逃げ出した。着の身着のまま、その書物と護身用の槍……そしてお守りのように抱えた思い出の歴史書だけを抱えて。
「翌日には指名手配犯ですよ。罪状を見て呆れました。審問官に突然斬りかかった狂人扱いされてたんです。あの町は自由に学問を追求できるものだという憧れは崩れました。後は言わなくても分かりますね?」
「……マーセナリーはその苛酷さ故に、例え犯罪者であっても能力があればなることができる。評価次第では審査会の口利きで前科を消すことだって出来る」
――マーセナリーはヒトの屑がやる仕事。
この世界に入ってきた理由など、総じて碌でもないものだ。彼もまた、そんなろくでなしの一人だったらしい。
「まぁ、二度とあそこに戻ろうとは思っていませんがね。……もうお気づきでしょう。僕が持っているこの本がその禁書です。ここには――抹消された8人目の記述が存在しました。未だ世界の学者のほとんどが存在すら知らない8人目の、ね」
「……………」
そして失われた俺の記憶の断片は、ファーブルが死に物狂いで掴んだ8人目とやらに強く反応している。
誰もが存在すら知らない筈の8人目に。
これはどんな巡り合わせだろうか。偶然にも8人目の事実を知って追われる身になった男が、自分のすぐ近くに転がり込んできていたなど。もしこれが女神の思し召しなのだとしたら、余りにも皮肉なことだ。戦いしか能のない屑と罪を犯した逃走者――そんな不心得者に真実を得るチャンスを与えようというのだから。
「貴方は20年前から年を取っていないのでしたね。そしてそれ以前は記憶がない。ならば――ひょっとしたら貴方は当事者だったのかもしれません。この本に登場する8人目がいた時代の。だから僕は――貴方の真実が知りたい」
「いいんだな?お前が罪人扱いされた原因だ。これの所為で全てを失ったのだろう?」
「………知りたいんです」
決意の目は本物だった。しばしその覚悟を試すように見つめ、ため息をつく。
これではまるで俺の方が渋っているかのようだ。
「分かった。……その8人目の名前は?」
ファーブルの額から汗が垂れる。その喉は頭の命令を体が拒絶しているかのように、言葉に出来ていない。彼にとっての没落のきっかけになった禁書の内容を、彼自身も言葉にして出すことに躊躇いがあるのだろう。
耐えられなくなったように、彼は持っていた水筒の水を喉に流しこんだ。
「――ふぅ。……臆病ですよね、僕。もうあの町を追放された身の癖に、未だに体のどこかで異端扱いされることを恐れてるんです」
「ここには異端審問会はいない。落ち着け」
「はい、すみません………」
「聞いていいか。その8人目は、何故歴史から抹消されたんだ?」
その質問に彼は再び身をこ
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