9話 「シークレット・エイト」
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「……いい、機会なのかもしれない」
ブラッドになら打ち明けてもいいかもしれない。
自分が唯一、戦士として尊敬する男。今まで何度も挑んでは敗北してきた、まるで戦史の英雄のような実力を持つ男。自分自身、彼の過去が気になっていた。
「ブラッドさんの過去を探求するのにこれが必要ならば――」
= =
その日の夜。ファーブルは古びた本を一冊抱えてブラッドリーの部屋を訪れた。
律儀にもドアをノックしたのちに部屋に入った彼は、いつになく顔から表情が抜け落ちていた。
前にカナリアが来たときは、入るなり殺風景だと文句を言って色々とものを置いていこうとしたものだ。いくらなんでもクマのぬいぐるみは遠慮させていただいた。だが、今のファーブルからはそのような余裕は感じられない。
「お待たせしました」
「……大仰だな。俺はそんなに大層な事を口にしたのか?」
「ええ、僕にとっては……ですがね」
部屋の椅子を引いて座るよう促し、自分も別の椅子に座る。
「もう一度だけ確認させてください。六天尊とゴルドバッハに加えてもう一人いた。その記憶は確かなものですか?」
「……俺の感覚的なものだが、足りない気がするのだ。もう一人、老に近しい男がいた気がする」
そう返答はしたが、自分でも何故そんな気がするのか根拠は分からない。それが自分の過去とどうかかわっているのかも不明だ。だが、それを聞いたファーブルは大きくため息をついて項垂れた。
「まいったな……こんな数奇な繋がりがあるのか?これも女神エレミアのお導きなのかもしれないですね……」
その表情には諦観と共に深い陰が落ちているように見えた。
その様子はむしろ、その答えを聞きたくなかったかのようで、罪人が自身の過去を独白するような、そんな陰。顔を上げたファーブルは、自嘲的な笑みを浮かべる。
「少し、僕の身の上話を聞いてください」
月明かりが照らす光によって顔半分が影に包まれる。その陰に隠された顔が、哭いている様が気がした。
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