6話 「ロストメモリーズ」
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リアはそんな俺の手を取って引っ張った。まだ話は終わっていないとばかりに不満そうである。
「まぁまぁ最後まで聞いてくださいよ」
「……仕方ないな。拝聴させてもらおうじゃないか」
向き直った俺の手を握ったまま、彼女は俺に背中からもたれかかって俺の顔を見上げた。
「わー、下から見たブラッドさんって変な顔!」
「……そのままバルコニーの下に投げ捨ててやろうか?」
「あははっ、冗談ですよー!……で、話なんですけどね?」
俺の胸板に背を預けたままに、彼女は繋いでいた俺の手を抱きしめた。
その仕草を昔にどこかで見たことがあるような気がして、脳裏がざわつく。
子供が親に甘えるようなその仕草を彼女が意図的に取ったかどうかは分からない。
だが、俺の意識は不思議と彼女の発する言葉へ吸い寄せられた。
「分からないんなら、自分を探してみたらどうですか?」
「………俺を、探す?」
「そう、記憶を取り戻すんですよ」
ぱっと手を離した彼女はくるりと身を翻して俺にびしっと指を差した。
「ブラッドさんの言葉の訛りとか、剣技の流派とか、あとは彷徨ってた場所とか!そういう小さな情報ってきっとブラッドさんの記憶に繋がっていると思うんです!」
自信満々に「我こそ名探偵!」と言わんばかりのその姿は子供っぽくて説得力に欠ける。
だが、彼女の言っていることは思った以上に建設的だった。
今までうやむやにしていた自身の記憶を掘り起こす作業。それによって得る物もあるかもしれない。このどっちつかずの感情に決着をつけることだって。ひょっとしたら、戦わずにはいられない今の俺を変えることにも繋がるかもしれなかった。
「それにブラッドさんって偶に既視感のようなものを感じるって言ってましたよね?」
「……確かに、あるが」
「それもきっと記憶と関係ありますよ!だから、探してみませんか?自分の記憶を!あ、もちろん私も手伝いますよ?ビジネスパートナーとしてっ!」
「――………」
月明かりに照らされる彼女の顔が、微かに胸を揺さぶった。
期待を込めた目で差し出される手に目を落とす。
言いようのないざわめき。記憶のどこか遠くに置いてきてしまった風景。
その手を掴まなければいけないような――予感?それとも、後悔?
気が付いたら、俺はいつのまにかその手を握り返していた。
毎日のように血に塗れるその手と、まだ子供のように小さな手が交わる。それは、何故かとても罪深いことのような気がした。彼女とてその手で魔物を屠ってきたはずなのに。
「これからもよろしく!」
カナリアは嬉しそうに握った手をぶんぶんと振り回してにぱっと微笑む。
その微笑みに心がざわつく理由は――少なくとも、月光に照らされる男女の約束
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