6話 「ロストメモリーズ」
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「珍しいですね、ブラッドさんが星を見るなんて」
「その声……カナリアか」
開けたままだった戸がきぃ、と小さな音を立てて開く。
見ればカナリアがバルコニーに出てきてこちらを見つめていた。白いネグリジェに身を包み月明かりに照らされる彼女は、幼いのにどこか彫刻のような神秘的な光沢がある。
「普段なら明日に備えて部屋に籠り剣を磨いてるでしょうに……ネスさんと喧嘩ですか?」
「……そういうお前も珍しいぞ、カナリア。お前ながら今頃部屋に籠って爆睡しているか武器を弄っている時間帯だ」
「そこはそれ、お互いさまという事で。ね?」
隣まで歩み、バルコニーの手すりに手をかけたカナリアはいたずらっぽく笑う。
こういう時だけ、彼女は驚くほど大人っぽい表情を見せる。普段は子ども扱いしているが、彼女が年上の女性であることを実感させられて少しばかり複雑な気分になった。言動や容姿と一致していないだけで、彼女は確かにそれだけの年月を重ねてきたのだ。それを認めるのは自分を子供だと認めるようで抵抗があったが、認めない方がみっともない。
「気付いてたんだな、俺とネスの事。食えない女だ」
「伊達に年を取っていませんよ。私くらいになるとナージャちゃんみたいに仕草に出してしまうことさえ防げるのです!」
「……年寄り臭いな」
「なっ……し、失礼な!!ガゾムで70代はまだピッチピチですよ!?」
うがぁー!と抗議の声を上げてプンスカ怒るカナリアだが、ガゾムという種族は何歳になっても姿が子供のままで有名な連中だ。年寄りも若者も分かったものではない。
そう考えて、年齢が分からないのは俺も同じかとブラッドリーは自嘲的な笑みを浮かべた。戸籍上は既に44歳になるにも拘らず、その身はまだ若者と言って差し支えない。
「俺は、何者なんだろうな」
ぼそりと漏らす。今まではさほど重要にも思っていなかった問いだった。
今になってそれを思うのは、ネスの言葉の所為だろうか。
いつまでも年を取らない肉体で、いつまでも戦い続ける。そんな生活を続けても己が身は滅びることがない。いずれ俺の周囲にいた人間は、ネスもナージャも寿命で去って、空っぽな戦士だけが残るのだろうか。そう思うと――今更、自分が何なのかを知りたくなった。
「知りたいんですか、ブラッドさん?」
「……お前が知ってるのか?」
「いえ全然?まだ出会って一か月程度ですからね?ブラッドさんの事は分からないことだらけです」
「だよな」
予想通りの返事に少し辟易する。
ほんの少しだけ何か知っているんじゃないかと期待してしまった自分に呆れた。
ブラッド自身も彼女の事を多くは知らないと言うのに、彼女が俺の事を知っている筈が無いじゃないか。頭を振ってまた空を見上げようとすると、カナ
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