5話「始まりを知らない男」
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」
「……同情するよ。お前のそんな性分にな」
「うるせぇ、てめぇの所為だ」
その日とやらは、自分が生きているうちにか来ないかもしれない。
そうどこかで自覚しているような、そんな口調だった。
= =
この宿では食事は基本的に全員で取る。
この宿に部屋を借りる十数名と従業員。全員で食卓を囲む様はまるで家族のようだ。いや、むしろ家族のいないネスはそれを望んでいるのかもしれない。
「ヨーオ、ブラッドちゃんよう。新入りの子に手取り足取り指導したんだろう?どうだったんだ?揉んだか?柔らかかったか?」
「ジョッカーさんってば下品。喋んないで」
「喋る不純物ね。料理がまずくなるからちょっと死んで頂戴。もしくは私の秘薬の被験者に……」
「まぁまぁアイシャさん。彼が品のない男なのは今に始まったことではありませんし、ここは大人の対応をしましょう?」
「ヒデエ奴等だ!仮にも同じ宿で寝泊まりしてる先輩に敬意の欠片くらい抱け!」
「ふぉふぉふぉ、日ごろの行いじゃのう。……で、実際の所どうだったんじゃ?」
「魔物との戦闘経験と覚悟はふにゃふにゃだった」
「ほ、そりゃイカンな」
「アラマ、確かにそら駄目だわ」
「……死ななくて運が良かったな、その新入り志願者共。リメインズをアミューズメントと勘違いされては我らの立つ瀬がない」
「だぁーねぇー……」
食堂の大テーブルを囲っての食事はいつも騒がしく、いつでも明るい。このようにたまの休息や食事を純粋に楽しめるからこそ、彼らは強いのだ。そういう意味で、マーセナリーの強靭な精神は正規軍にも劣らない。そしてそんな連中の身体を作っているのが宿のお手製料理と言う訳だ。
今日のそれはナージャが作ったものだが、ナージャに料理を教えたネスの料理もまた美味い。この味覚と満腹感もまた、俺に小さな安らぎを齎す。
だがその一方で、素直に食事を楽しみきれていない自分がいた。
理由は言わずもがな、ネスにかけられた一言だった。
あれは昨日今日で思いついたものではない筈だ。きっと、ずっと考えていたに違いない。
当人は何食わぬ顔でいつものように食事をとっている。ナージャはそんなネスを横目で少し見ていたが、何も聞かなかった。おそらく俺とネスが何か話をしていたことを悟って、口を挟むべきではないと思ったのだろう。
ちなみに自称パートナーのカナリアはというと、そんな空気は一切察することなく幸せそうにデザートのプリンを頬張っていたが。この落差は過ごした時間の差なのか、それとも単純に気質なのか。あいつのことは分からない。
食事を終えた後も俺はネスにかけられた言葉が胸中を渦巻いていた。
ベッドに横になっても嫌に目が冴える。暗闇に差しこむ月明かりがやけに明るく感じ
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