5話「始まりを知らない男」
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の言う事を聞いていてもいいと思えた。やがてネスは俺の事を友達だと言い、俺もそれを受け入れた。
昔、こうやって人間らしく過ごしていたという朧げな記憶を思い出させてくれた恩は今でも忘れていない。
そして――あの日、俺は唐突に思い出した。
俺が剣士で、戦いが好きであったことを。
「俺はな……今でも分からねえんだ。あの日、何でお前があんな真似をしたのかが。お前はそのまま戦いを忘れて普通に生きるものだと勝手に思い込んでたよ………」
まるで自分が見た夢を語るように儚い声が、無音の廊下に響いた。
あの日に俺がやった行動は、今も街中で恐れ交じりに語り継がれている。その日から俺は、周囲に名無しではなく鮮血騎士と揶揄されるようになった。
同じ夢をよく見るようになったのも、あの日からだったか。
俺はあの日を境に――戦闘衝動という名の渇きを癒すために魔物を殺し続けている。
魔物を殺し、その血を見ることが安らぎなどということがあるのだろうか。
きっと徳を説いた女神とやらは俺を憐れむだろう。或いは、存在すら認められないかもしれない。
肉体を限界まで酷使し、凶悪な魔物を惨殺する自分に酔い始めたのはいつからだろう。
それが道徳的に間違っているという意識を持ちながらも、剣を手放せずにずぶずぶと沼に沈んでいく哀れな男。
「もうやめないか、ブラッドリー。リメインズは後から続く連中に任せて、お前はどこぞの秘境にでも旅に出りゃいい。金なら一生遊べるくらい稼いだだろう?その金使って好きな女を見つけて、愛し合って、子を持つ……そんな幸せって奴を追いかける訳にはいかないのか?何ならその腕を活かして剣術師範にだってなれるだろう?」
ネスは諭すようにそう言った。
本当に、俺をこれ以上戦いに近づけたくないんだと痛いほどに分かる。だが、痛いほどに分かるからこそそれは駄目だ。その思いやりを無碍にしてでも戦いを続けようとしている獣の意志が、それをはっきり拒絶していた。
失われた記憶か、それとも本能か――それがけたたましく叫ぶのだ。
戦えと、血を散らせと、そこがお前の居るべき場所だと。
戦士である自分を自覚したあの日からずっとずっと、それは絶えない。
戦って殺す、それ以外に何も知らないし出来ない。
それがあって初めて、鮮血騎士は己が存在することを証明できる。
「俺はマーセナリーを続ける。それ以外に興味は持てないし……辞めればきっと、俺は抜け殻になる」
その返事を聞いたネスは、深い深いため息をついた。
顔に刻まれた皺に、沈痛な影が落ちる。
「………本当にどうしようもねえ屑だな。ああいいさ、付き合ってやるよ。俺の身体が動く限りずっと付き合ってやるさ。お前が戦いを諦めるその日までな
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