5話「始まりを知らない男」
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ナリーなんか辞めたらどうだ?」
足がピタリと止まった。
「もうマーセナリーを始めて20年だ。来る日も来る日もあの化物の巣窟に潜り続けて早20年。今じゃお前はデルタポリスで活動するマーセナリーの中じゃ最古参になっちまった」
「………そうだな。どいつもこいつも怪我や年齢で引退し、残りは魔物に殺された。あの頃から俺は何も変わっちゃいない」
「今も昔もマーセナリーになる馬鹿野郎は後を絶たねえ。だがお前以外で生き残った連中は、リメインズの外に居場所を見出して羽ばたいたんだ」
「故郷に帰った奴、お前のように店を持った奴、後世を育てるために師範や教師になった奴……あの荒くれ者どもも変わるものだ」
戦争終了後にマーセナリーに入った連中というのは、戦争の狂乱に酔ってしまったような戦闘狂が大半だ。戦いの後の平和になじめずにここに来た奴も多かったらしい。だがその世代も流石に10年20年とあんな魔窟に潜り続けているとネスのように戦いが厭になってくる。
俺の先輩だった連中はそうして、或いは死んで、あるいは仲間の死を目の当たりにして己を見つめ返していった。俺の同期だった連中もそうしていなくなっていった。
だが、俺はそうはならない。
振り返った時そこにあるのは、どこまでも空虚で戦いに飢えた自分だけだった。
始まりも終わりもなかった。
「いつまでそうしているつもりだ?いつまで魔物を殺し回って返り血を浴び続ける気なんだ?血みどろの鮮血騎士さんよ」
険しい顔で言い寄るその言葉にはどこか棘があった。
俺の事が気に入らないというのではない。ネスなら気に入らない客は自分で宿から叩きだすし、ネスが出て行けと言えば俺も従う。だがネスが言いたいのはそういう事ではないのだろう。
つまり、俺にもうこの仕事を辞めろと言っているのだ。
「20年前、俺はマーセナリーを辞めてこの宿、「泡沫」を建てた。戦いばかりの自分に嫌気がさしたからだ。退魔戦役に参加した時の報酬とその後に稼いだ有り金の全部を突っ込んだ。剣も鎧も売り払った。そしていよいよ開店しようって時に……ブラッドリー、お前が現れた」
戦争の余波で荒れた大地をふらふらと歩き続けていた俺は、そのとき偶然にもネスと出会った。
ネスは俺の顔を見て驚くと同時に、憐みの目で俺の手を引っ張った。宿に放り込まれ、大味な男料理を食べさせられ、湯あみ場の浴槽に叩き落とされ、そして部屋を貸し与えられた。
当時の俺は余程どうしようもない顔をしていたのだろう。そんなどうしようもない見ず知らずの男に、ネスは何かを感じ取ったのだ。
ネスは何もかも豪快な男だった。
何もする気が起きない俺にヒトらしい習慣を押し付け、何かと宿の仕事を手伝わされた。やることもなかった俺は、その男
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