5話「始まりを知らない男」
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ネスは一通りチェックを終えた鎧を作業台の横にどけ、漸くこちらを振り返った。
「装備のメンテだろう?そこの台座に置いて行け」
「いつも世話になる」
「はん。もう20年近い付き合いだ。慣れたよ」
鼻を鳴らして凝り固まった肩をほぐしたネスに頷き、鎧を外して台座に乗せた。一応ながら血糊は洗い流したが、全ては落ちていない。これを必ず翌日までにピカピカに磨き上げる彼の腕前は、鍛冶職人としての腕でも発揮される。この宿に住むマーセナリーにとっては心強い存在だ。
20代程度に見える俺と、40代のネス。一見すると親子ほど年が離れているように見える。
だが俺は『ネスが20代の頃に』知り合って、それ以来の付き合いだ。
俺は、記憶を失ったらしいその日から年を取っていない。
ネスはマギムという種族だ。外見的な特徴は「尻尾や角の類が一切ない」ことで、寿命は長くて100年前後。このロータ・ロバリーに住むヒト種の中ではかなり広範囲に散っている民だ。そして俺も、外見特徴はマギムと一致している。
なのに、俺は年を取らなかった。
荒野を放浪するうちにネスに拾われるように保護されたときは同年代に見えたが、今では随分年が離れたように感じる。それでもネスは何も言わずに俺を近くに置いてくれている。
この星のヒト種の寿命は短くて50年、長ければ1000年近い者もいる。俺がそう言う種族だと考えれば年を取っていないように見えるのも不可解ではないが、それでも「生きる刻が違うのだ」と否応なしに思い知らされるのはいい気分ではない。
「ところでネス。そろそろ夕食だそうだぞ」
「何?もうそんな時間だったか……」
作業台の時計はそろそろ午後七時に差し掛かろうとしていた。作業グローブを外して頭を掻いたネスが深いため息をつく。
「しまったな、こう暗い所に籠ってると時間の感覚がなくならぁ」
「そう思うなら少しは外に出ろ。またナージャに怒られるぞ?掃除の邪魔だ、ってな」
「けっ……娘くらいの歳の癖に女房面かよ」
ぶつくさと愚痴りながら作業台を離れたネスは、今度は凝り固まった腰をバキバキと鳴らす。その姿は外見も含めてオヤジ臭い。体が年を取ると仕草も年を取るものなのだろうか。
カナリアなんかは御年72歳なのに精神的には大して熟成していない。肉体が幼く見えるせいで精神にも影響が出ているのかもしれない。
共に食堂へ向かいながら、ぽつりと言う。
「お前も年を取ったな」
「そう言うお前も戸籍上は俺と同い年だろうがこの若親父!」
ムキになって怒鳴ったネスの言葉に、そう言えばそうだなと苦笑した。
「……なぁブラッド」
不意に、ネスが真顔になって足を止めた。
「どうした?」
「……もういい加減にマーセ
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