2話 運命は狂いだす
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い''研究者には秘の伝承どころか魔導書の閲覧すら渋る有様だ。なぜ術者としての期待度が血筋だけで決まるのか。
なぜ理論の信憑性が、年の功だけで決まるのか。誰もウェイバーの問題提起に耳を傾けなかった。
講師たちはウェイバーの論究を煙に巻くような形で言いくるめ、それでウェイバーを論破したものとして後は一切取り合わなかった。あまりにも理不尽だった。
その苛立ちはますますウェイバーを行動へと駆り立てた。
魔術協会の旧態依然とした体制を糾弾すべく、ウェイバーがしたためた一本の論文。
その名も『新世紀に問う 魔導の道』は、構想三年、執筆一年に亘る成果であった。持論を突き詰めつつ噛み砕き、理路整然と、一分の隙もなく展開した会心の論文。
審問会の目に触れれば、必ずや魔術協会の現状に一石を投じるはずだった。
それを──事もあろうに、ただ一度流し読みしただけで破り捨てた降霊科の講師。
名をケイネス・エルメロイ・アーチボルトといった。九代を重ねる魔導の名家アーチボルトの嫡男であり、周囲からは『ロード・エルメロイ』などと呼ばれもてはやされている。
学部長の娘との婚約をとりつけて、若くして講師の椅子まで手に入れたエリート中のエリート。
ウェイバーがもっとも軽蔑してやまない権威を体現する、鼻持ちならない男であった。
『君のこういう妄想癖は、魔導の探求には不向きだぞ。ウェイバーくん』──高飛車に、声音には憐憫の情さえ含めながら、冷ややかに見下してきたケイネス講師の眼差しを、ウェイバーは決して忘れない。
ウェイバーの十九年の生涯においても、あれに勝る屈辱は他にない。
仮にも講師職を務めるほどの才を持つのであれば、ウェイバーの論文の意味を理解できないはずがない。いや、理解できたからこそあの男は妬いたのだろう。
ウェイバーの秘めたる才能を畏怖し、嫉妬し、それが自らの立場を危うくしかねない脅威だと思ったからこそ、あんな蛮行に及んだのだ。
よりにもよって────智の大成たる学術論文を破り捨てるなど、それが学究の徒のやることだろうか。許せなかった。
世界に向けて問われるべき自分の才覚が、ただ一人の権威者の独断によって阻まれるなどという理不尽。だがそんなウェイバーの怒りに対し、共感を寄せる者は、誰一人としていなかった。
それほどまでに魔術協会は──ウェイバー・ベルベットの観点からすれば──根深いところまで腐りきっていた。そんな屈辱を受けたウェイバーは廊下を歩きながら、廊下で愚痴を垂れていたわけだが。
「うわぁっ」
愚痴を言っていたせいか、周りが見えておらず荷物の運び途中の人ぶつかったのだ
「あぁ すまないね 大丈夫かい?」
「あっ いえ大丈夫です」
「君はここの学生だよね? 講義はどうした」
「あっ …その…」
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