4話 「自称ビジネスパートナー」
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いた。既にこの店にとっては身内も同然だ。
それに、その宿には元々そのようなアットホームな空気がある。経営者のネスがそのような雰囲気を気に入っている事と、この宿がマーセナリー用の宿であること。その二つもあってか、この宿に部屋を借りる者たちの間にも不思議な連帯感があった。
食堂から香るかぐわしい匂いにつられたカナリアを見送り、俺は勝手知ったる宿を歩き出した。
もう20年も前の事だ、この建物に住み始めたのは。彼の友達にされたのも同じころ。
そして、マーセナリー始めたのはそれから間もなく。
俺がどれほど忌み嫌われようと、どれほど厄介な客だろうと、あいつは一度たりとも俺を追い出すような真似はしなかった。そんなあいつの下に別の客が現れ、ナージャが流れ着き、俺に興味を盛った酔狂者がやってきて……今ではこの「泡沫」も随分賑やかになったものだ。
いつしかここは、俺だけではなく多くのヒトの家になっていた。
宿の奥――ネスが個人的に作った作業工房へと歩みを進めて、ドアを叩く。
時間を待たずして中からくぐもったしゃがれ声が返ってきた。
「ブラッドか……入れ」
「邪魔する」
足 音とノックの音で俺だと分かっていたらしく、顔も確認せずに通してくれた。
スタンドライトから照らされる明かりの中、鉄と埃の臭いに塗れながらマーセナリーの装備をメンテナンスする男の背中が見えてくる。
伸ばした髭をバンドで括る初老の男は、背後の気配も気にせずハンマーで鎧を叩いて強度を確かめている。その顔には気難しそうな気質が皺として刻まれており、未だに鍛えられている肉体と相まって人を威圧する迫力があった。
だが、俺はその男が面倒見の良い男だとよく知っている。
「装備のメンテだろう?そこの台座に置いて行け」
「いつも世話になる」
「はん。もう20年近い付き合いだ。慣れたよ」
なにせ、こいつは俺の親友を20年も続ける酔狂者なのだから。
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