4話 「自称ビジネスパートナー」
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記憶とは実に不確かで充てにならないものだ。
気が付かないうちに零れてしまった記憶。真実が書き換えられた記憶。何の足しにもならない無駄な記憶。でも、そんな記憶でも確かに今を生きるヒトには必要な記憶なのかもしれない。きっと大切なものなのだろう。
だが、俺には欠落している記憶がある。
燃え尽き損なった紙のように黒ずんでぽっかりと空いたその空白は、きっと大切なものを道連れに灰として散っていったのだろう。
気が付いた時、俺は無気力に荒野を彷徨っていた。
手に紅色に染まった剣を握り、身体には機動力を重視した軽量鎧。きっと記憶を取りこぼす前は戦士だったのだろう。しかし、その頃の俺にとっては余りにもどうでもいい情報だった。
故郷は知らない。
人種は知らない。
家族は知らない。
国籍は知らない。
今まで自分がどんな歩みを続け、何が起きたのかを一切知らなかった。
何も分からないままただ無気力に歩き続けた。
今になって思えば、俺は何故記憶を思い出そうとしなかったのだろう。今更それを問うても、答えは出ない。もしかしたら俺は自分の意思で記憶を捨て去ったのかもしれない。
そして今では、荒事ばかりをしている。
古代遺跡『リメインズ』の探索者――マーセナリーという荒事を。
病室を出た俺は、部屋の外で待っていた人物に口頭で報告する。
「聞いての通りだ。あいつらをマーセナリーとは認めない。それでいいな、ベネッタ?」
「はい。彼等では無駄死にするのが目に見えていますから」
ベネッタと呼ばれた女性は眼鏡をくいっと上げ、淡々とそう答えた。
胸元に光る「審査会」の証、三連星のバッジ。彼女は今回の依頼を俺に回してきた審査会のメンバーだ。俺の下に面倒な仕事や危険な仕事を積極的に持ち出しては、成功させて帰ってきた俺に内心で舌打ちをする非常に性悪な人間である。子供には優しいが野郎には容赦がない。
今回のような子守り染みた仕事は特にやりたくないのだが、マーセナリーは契約制。そして契約内容には、審査会の真偽でマーセナリー不適合と判断されたものを除籍する旨の決まりも存在する。つまりパトロンに生意気な口を聞けばクビを切られる可能性があるという事だ。
ベネッタとは付き合いが長いが、彼女はどこか俺を軽蔑している節がある。マーセナリーが嫌われるのも俺が嫌われるのもよく分かるが、そのとばっちりを受けて契約を打ち切られるのは御免だ。おかげで戦いを楽しめない日も多い。
いかにも生真面目といった風体の彼女は、手元の書類にさらさらと走り書きをして、では、と短いあいさつを交わしてその場を後にする。
「待て」
「……何か?」
怪訝そうな表情で振り返ったベネッタに、ひとつだけ伝えておく。
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