その4
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「本当に誰も通りませんね…」
(花をもらったら嬉しい、か…。そう言われたらプレゼントしたくなる。そうだ、ここにある花で…)
菊に背を向け、あまっている花を使ってブーケを作ることに。
(相手の顔を想像するって言ってたな。菊の笑顔……? っ! むちゃくちゃかわいい)
菊をイメージしながら、花束を作っていく。
(でもどんな色を組み合わせればいいんだ? この画集でも参考にするか)
熱心に作っていくうちに、いつの間にか自分の口元に笑みが浮かんでいるのに気が付く。
(こんな自分、今まで考えられなかったな。誰かの笑顔を見たくて花束作るなんて…)
「もう、師匠?」
(……あ)
俺の行動に気付いたのか、菊が不満そうに声をかけてくる。
「さっきから何をされているんですか?」
(まずい)
あせった俺は、慌てて画集のページをめくる。
「ふむ。俺様、芸術のセンスも優れているみたいだな」
「そんなこと言っている場合じゃないのに…!」
菊はへなへなと腰を下ろし、膝を抱えて座り込む。
「ハァ…」
(おいおい、体育座りって、かわいすぎんだろうが…!)
ついじっと見ていたくなる気持ちを抑え、
「菊」
「はい……?」
振り返った菊に、俺は花束を差し出した。
「本田せんせ―に言われた通り作ってみたんですけど?」
「……!」
「授業であまった花で悪ぃけどさ」
「これ…私のために、ですか?」
「他の誰のためだよ?」
床に片膝をついて菊と目の高さを同じにする。だんだんと顔が熱くなるのがわかった。
「俺からのブーケ…受け取ってください」
菊は心底驚いている様子だったが、嬉しさがこみ上げてきたらしい。とびきりの笑顔に、俺はハッとしてしまった。
(なんだよそれ…俺が想像していた以上の笑顔じゃねぇか! …直視できねぇ…)
「ま、俺は花束渡すなんてガラじゃねぇけどさ」
あまりに照れくさくて、わざとやさぐれてみる。
「たまにはいいだろ?」
「……」
「あれ、そうでもないって?」
「違います…言葉にならないんです…」
一度俯いた菊だが、顔をパッとあげると涙ぐんだ笑顔で言った。
「師匠、ありがとうございます…!」
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