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真夏のアルプス
第1話 ピッチャーズ・ハイ
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津田」
「ん?」


グランドで行われる先輩方の練習を眺めながら、トレーニングの合間の休憩をとっていると、修斗に声をかけてくる奴が居た。スマートで細目の少年、見た目だけでなく、態度もどこかクールなこの少年は、日新学院中等部軟式野球部の4番キャッチャーだった佐田俊雄という。


「……お前、どうしてあの試合だけ、あれほど球が走ってたんだ?次の試合から球が走らなくなったのは、怪我か何かか?」
「え?そんなに違ったか?」
「違ったさ。春の大会で対戦した時は120キロ前後。遅くは無いが、速くもない。変化球がろくすっぽ曲がらない、制球もアバウトという事を考えると、それだけで市内上位を抑えられる程甘くはない。お前は凡Pのはずなんだ」
「お前、マジ言いたい放題言ってくれるな……」


無表情で淡々と、修斗に対する評価を述べる佐田。その表情がピクリと動く。


「凡Pのはずだった……んだが、あの試合に関しては違った。スピードガンでは135キロ出ていた。軟式であれだけ出されると、芯に当たったって中々飛ばない。突然15キロも球速が上がるなんて、一体どんなマジックを使ったんだ?しかもそのマジックは、一試合限りで消え失せたときた。つまり、春から夏にかけて成長した、という訳じゃない。だから、マジックなんだ」
「お前なぁ……」


具体的な数字を聞いたのは、修斗は初めてだった。仲間や保護者から、あの準々決勝が会心のピッチングだったと口々に聞いてはいたが、まさか15キロも球速が上がっていたとは。普通の自分は大したことないと、ズバズバ言われるのは癪だったが、135キロという、一試合限りとはいえ、確実に出た数字には自分でも驚いた。


「……そんなの、分かんねえよ。分かんねえうちに球速くなってた」


修斗はそう答えたが、自分では確かに分かっていた。自分が何故あんな力を出せたか。その他の試合になくて、あの試合にだけあったもの。それは決まっている。

日新学院中等部の応援席。彼女は金色にピカピカ輝くトランペットを握っていた。形良く尖った顎、パッチリとした目、風になびくショートカット。マウンドから距離はあったはずなのに、バカに良く見えていた。


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