参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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をよじったけど、惟伎高が離れてくれる様子は全く無い。
「痛いってばぁ!」
「現に今、おまえは俺の下から逃げられもしない」
痛み故に話の内容は全くと言って良いほど頭に入ってこなかったが、言外に女がバカにされているということは理解できた。
それはあたしの負けず嫌いの心を燃え上がらせる。
なめるな!
「どきなさい、よッ!」
「ぐ!?」
あたしは突如バネのように足を思いっきり振り上げた!完全に手中内だと思っていたあたしがいきなり予想外の抵抗をしたものだからか、それは見事なまでに的中した。
あらぬところを蹴ってしまったようで、さしもの惟伎高も一瞬動きが止まる。あたしがそのスキを逃すわけも無く、重ねて惟伎高の胸を強く足蹴にする。裾は乱れたが、やっと惟伎高の下になった状態からは抜け出せた。
「なにすんのよ、アホッ!」
「・・・」
しかし返る言葉は無かった。
あたしは裾を整えながら起き上がる。惟伎高はあたしに蹴り飛ばされたままの、尻餅をついたような格好で深く俯き、全く微動だにしない。
「あーあー髪も服もぐちゃぐちゃよ!どうしてくれんのよ・・・惟伎高?」
ふと反応がないのが気になって、あたしは一瞬躊躇ってから、おそるおそる惟伎高の傍ににじり寄った。あたしそんなに強く蹴ったかしら?いや加減なんて頭に無かったから、結構な力で蹴ったかも知れないけどさ。まさか死・・・んだりはしないでしょうけど、人体の急所と言われるところのひとつだし、この豪傑な惟伎高が声を失うぐらい痛いのかも知れない。
でもなんか、痛がっている感じとは違うような・・・。
静かに沈黙するだけの惟伎高に、底知れない不気味さが漂う。これならまだ、痛がってのたうち回ってくれた方がわかりやすくて良い。
まさか、この姿のまま失神してるんじゃ・・・。
「惟伎高?」
そこまで痛いのなら、流石に悪い事したな・・・と思いながら、あたしは俯く惟伎高にゆっくり手を伸ばした。その手を、素早く捕らわれる。
「えっ!?」
あたしは驚き、思わずその腕を見た。惟伎高の手が、あたしの手首を掴んでいる。すぐさまそこに、握りつぶそうとしてるんじゃないかと疑うほどの、激しい力が篭もる。
「いっ・・・!」
あたしは思わず呼吸を詰めた。苛烈な痛みに顔を顰めたあたしの目の前で、惟伎高がほんの少しだけ顔を上げた。前髪の間から瞳が覗く。静かな瞳。その内で猛り狂う炎がうねり燃えているのが見えた。
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