第2巻
冥王と魔女との記憶
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冥王は気のない風を装って、空惚ける。同時に鼻を鳴らし、この話はこれでもうお仕舞いだとサインを送る。新たなページをめくろうとしたが、いきなり冥府の魔女に書物を奪い取られた。
「妻である私の前でまで、悪人ぶらないで欲しいわ?」
酷く拗ねたような口調で言う。
「余の伴侶を名乗るなら、もっと賢妻然としていて欲しいものだな・・・・冥府の魔女よ?」
冥王は苦笑いで、その子供っぽい行為を咎めた。二人の間を遮る物が何もなくなり、冥府の魔女の顔はまさに人形のような美しさを持っていた。声と口調は拗ねているが、彼女の表情は表出していなかった。
「返すんだ」
言葉短く、冥王は命じる。手を差し出すが、冥府の魔女は無言無表情となり、八つ当たりのようにして書物を後ろに投げ捨てた。冥王と畏れられた男に対して、遠慮が無い程甘えたり拗ねたりしている。魔女と畏れられるのが嘘の様なあどけなさ。冥王は呆れたように嘆息し、それから親愛に満ちた苦笑いをした。
「あまり余を困らせるな」
「お断りだわ。私はもっと構って欲しいのよ・・・・見て」
魔女は拗ねるが、暴挙に出た。立ち上がり迫ってくるが、上着を肌蹴させ豊かな乳房二つが出てくる。彼女の乳房に刻まれた惨たらしい焼印が晒される。作り物めく程に完璧な美を損なうかのような見るも無残な汚点であるが、彼女はそれを誇るように見せつけるように胸を張る。
「奴隷だった私を、解放したのはあなたよ?」
蜜のような声でねだってくるように囁いてくる。
「あなたには、私を繋ぎ止める責務があるわ?」
そして冥王の右手を取り、自ら乳房の上の焼印に・・・・かつて刻まれた奴隷の証に導いた。
「・・・・全く。お前は自由だ。そも、人が人を縛る鎖など、どこの世にもないのだ」
冥王は愛し子を見る眼差しで、魔女の言葉を受け止めながら乳房の焼印をそっと撫でる。魔女の肌に触れる指先は優しく、慈しむような手つきで。
「私はあなたがくれた自由に溺れそうなの。だからあなたにしがみ付くしかないの」
冥府の魔女は、冥王の首に両腕を回し、膝に馬乗りになるように腰を下ろす。
「お願い。私の事を見て。私の事を捕まえて。私の事を放さないで。私の事を抱きしめて。私達が死ぬまで。私達が生まれ変わったその時も。ずっと永遠に」
魔女の細い体がしなだれかかってきて、豊かな乳房が挟まれてひしゃげる。
「それがあなたの、私に対する贖罪よ」
作り物のように動かない魔女の顔は、見つめてくる瞳だけは潤みを湛える。なので冥王は答える代わりに強く抱き寄せた。それ以上は互いに指一本触れずに、キスすらしないが、凍える世界では僅かな温もりを分かち合う。まるで魂の結びつきを確かめ合うような、情熱的な抱擁だった。
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