6部分:第六章
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第六章
「相手が来たということを教えるのも戦いなんだ」
「そうなんですか」
「坊主、よくやってくれたよ」
そしてまた告げるのだった。
「おかげで勝った、坊主のおかげでな」
「僕のおかげで」
「ほら、見るんだ」
こう言ってまた上を見上げる。するとそこにはまだイギリス空軍が残っていた。
「今空にいるのがイギリス軍だけだ」
「そうですね。僕達が」
「それが何よりの証だよ」
「それが何よりの」
「そうさ、まだ戦いは続くだろうがな」
どちらかが倒れるまでだ。既に戦争はそういう状況になってしまっていた。つまりヒトラーが倒れるかチャーチルが倒れるかである。
「それでも今は勝ったんだ」
「イギリスが」
「ほら見るんだ」
ここで一機のエンジンが一つの戦闘機が彼等の真上にまで来た。
「あの戦闘機のパイロットだって喜んでいるよ」
「あっ、あれは」
ここで、であった。不意にヘンリーが声をあげたのである。
「あれに乗っているのは」
「知り合いかい?」
「はい、お父さんです」
こう言うのである。
「お父さんが乗ってます」
「それがわかるんだ」
「はい」
わかるというのである。自信に満ちた返事だった。
「ほら、見て下さいよ」
言うとだった。その戦闘機が二人の上で旋回してきたのである。
「挨拶してくれてますよね」
「うん、確かにね」
「それが証拠です。僕に挨拶してくれてます」
「そうか。向こうにも坊主のことがわかるんだな」
「そうですよ。親子ですから」
わかるというのである。ここに理屈はなかった。
「お父さん、戦場に戻ってきました」
「ああ、そうだな」
「僕、お父さんがいない間頑張れました?」
「充分過ぎるよ、本当に」
その彼に対する曹長の返答はこれだった。
「もうね」
「そうですか」
「おかげでイギリスは救われた」
満面の笑顔でヘンリーに告げる。
「まだまだ戦いは続くけれどな」
そう言いながら空の上と下から心を交えさせている親子を見守っていた。この後間も無くドイツ軍はイギリス侵攻作戦であるアシカ作戦を中断させてドーバーから退いた。戦いはまだ続くのは事実だった。だがドイツ軍の本土侵攻は退けた。その中にはこうした小さな英雄の存在もあったのである。
小さな英雄 完
2009・11・7
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