2話 「汝、覚悟ありや?」
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れ、その弓を取り落として樹木に激突した。
「かはっ………!?」
上下の感覚が狂い、息が吐きだされる。衝撃で軋む全身をフラフラの足で支えきれずに、セリアはずるずると崩れ落ちた。
一体、何が起きたのか。混乱の極みの中で状況を確かめようとした彼女の目の前が、陰で暗くなる。この大きな影は――
「ガブリ、アル……?」
助けに来てくれたのだろうか――その淡い期待が、唸り声に砕かれる。
「グルルルルルルゥ………」
餓えた獣が放つ、飢餓と暴食を湛えた低い唸り声。
ガブリアルの数倍はあろうかという巨大な肢体。全身を包む毛皮。
狂暴性と野性を剥き出しにした赤黒い爪が光を反射して爛々と輝き、剥き出しの牙は今にも得物を噛みつぶし咀嚼せんと唾液を垂れ流す。
「お、オーガ……ベア……!?」
溢れ出る殺意が、瞬時に心を恐怖で塗り潰された。
喉が干上がり、体が震え、覚悟と戦意がぼろぼろと崩れ去っていく。
山の主とも死の狩人とも噂され、討伐には30人規模の用意が必要とまで言われる凶悪な魔物――オーガベア。体に何本の矢を突き刺し、どれほど斬りつけても次の瞬間には冒険者の喉笛を噛み千切り、その爪は鎧をも引き裂く。
それは、最も接敵を許してはいけない――そして、余りにも強すぎるから戦ってはいけない魔物。
その瞳が、怯える獲物の姿を――セリアをはっきりと捉えた。
援護、間に合わない。
回避、体が動かない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
考えても考えても突破口が見つからない、逃げられない。その牙に噛み砕かれ、爪に引き裂かれるビジョンから逃れられない。
瞳から後悔と恐怖の涙があふれる。
漸く本気になれたのに。
なのに、どうして――どうしてあそこで油断してしまったのか。
「グオァァァァアアアアア!!!」
咆哮と牙が、迫る。どうしようもなく惨たらしい自分の最期が近づいているのに、今のセリアには抵抗も碌にできなかった。恐怖と痛みに竦む身体で必死に地を這ってその場を離れようとするが、その足を――オーガベアが捕らえる。
「い……嫌ぁッ!?来ないで、来ないでぇッ!!イヤァァァァァァアアアアアアッ!!!」
こんな所で、私は死ぬの?
お願い、助けてみんな。助けて、女神さま。助けて――ブラッドリーさん。
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