6部分:第六章
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第六章
「全く。困ったものだ」
「困ったとか言っているわりには笑っているな」
「そうだ。矛盾しているぞ」
「女房が元気で何よりだ」
これが赤西の本音だった。
「おかげで何も困ったことはない」
「夫婦水いらずというわけか」
「いいことだ」
浜北と安永は赤西のその言葉を聞いて述べた。
「俺のところもそうだがな」
「俺のところもな。そしてだ」
ここで安永はさらに言うのだった。
「津田ももうすぐだな」
「おお、そうだな」
「もうすぐだな」
彼の言葉に浜北と赤西はすぐに応えた。
「さて、あいつが来たら冷やかしてやるか」
「そうするか。曾孫へのおもちゃか」
浜北と安永は楽しそうな笑みを浮かべて言い合うのだった。
「あいつも変わったものだ」
「昔はパイロットで一番だとか言っていて鬼とか言われていたというのにな」
「鬼でも曾孫には甘いというわけだな」
「その通りだ」
赤西が笑って言ったところで。また店の扉が開いて最後の一人である津田が来たのであった。彼もまたその歩き方はしっかりとしたものだった。
三人と並んでカウンターに座り。ここで四人になるのだった。
「これで全員揃ったな」
「そうだな」
「元気そうで何よりだ」
「よくもまあ生きているものだ」
四人はそれぞれ言う。その顔はどれも笑っている。
「あれから六十四年か」
「色々あったがな」
「結婚もしたし子供も孫もできた」
「曾孫までな」
四人でまたそれぞれ言う。言いながらアイスコーヒーを飲み続けている。ストローで飲むそれは冷たくそれと共にほろ苦さと甘さがあった。
「日本は負けたが立ち上がって」
「今はこうしてクーラーのある部屋で冷たいコーヒーが飲める」
「変わったものだ」
「負けたのにこんなに豊かになるなんてな」
このことにも思いを馳せるのだった。思いを馳せながらそのうえで。クーラーの涼しさとコーヒーの美味さもまた実感していくのだった。
「あの時はまた戦争をして勝つって言い合ったな」
「いや、まだそのつもりだぞ」
「俺もだ」
「勿論俺もだ」
その気持ちは変わっていないのだった。彼等は。
「まだ戦闘機に乗ってな。やってやるか」
「ノドンでもテポドンでも叩き落してやるわ」
「ついでに奴等に組する不逞の輩共を成敗してやるか」
「老いたと思って馬鹿にはさせんぞ」
血気は盛んであった。確かに年月は経ったがそれでも。彼等は彼等のままだった。
「ではその時はだ」
「うむ」
「戦うとするか」
「その時はな」
一度敗れてもまだだった。彼等の心は健在だった。その心はまだ変わっていなかった。
「あの国旗のままな」
「最後は靖国で会おう」
「何かあればその時は」
「行くぞ」
笑顔で言いながら彼等は今
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