プロローグ改
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、まだ辛うじて息があった。
血に濡れたその手を愛おしそうに伸ばし、涙を流す男性の首に回す。
そして女は男に耳元で囁いた。
――――――――。
そして、女は男に顔を寄せ――
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役者の顔は滲んで見えない。
役者の声はかすれて聞こえない。
ただ、最後に見えた景色では、男も女も大地に倒れ伏して動かなかった。
全身から血を垂れ流して、ぴくりとも動かなかった。
そしていつも――気が付くと、俺は女の胸に突き刺さっていた剣を左手に、2人を見下ろしているのだ。
――その剣の切先から鮮血を滴らせながら。
その夢が意味するものが何なのか、俺には分からない。
ただ、この夢を見た日は――ひどく喉が渇く。
= =
例えばだが、もし突然俺たちの上に広がる空が偽物だと言われれば、周囲はその言葉の意味が分からないだろう。だが、恐らくリメインズに潜っている人間ならばその言葉に一瞬は立ち止まる。
通常の迷宮には存在しない「空」が、地下に埋もれているはずのリメインズ内には存在するからだ。
常に晴れず、さりとて雨が降ることもない。そして空気は循環している。
光源はないのに明るんでいて際限の見えない天井を、ヒトは空と呼んだ。
だが視覚的には限りが見えないその空には実際には空間的な限りが存在する。
翼種の調べによると、一定以上の高度になると見えない壁にぶつかるという。その壁は見えないが、壁を伝うとリメインズはおおよそドーム状になっており、それ故に恐らく見えている空は古代の術が見せる「まやかし」なのだろうという結論がついた。
ならば、地上から見上げる世界の空は本物か?
太陽も月も星も本当は古代文明の見せる幻に過ぎず、俺たちも星という名の巨大なリメインズに囚われているのではないか?
そしてその疑問に対し、俺は思う。
そんな仮定は路傍の小石よりも些末なものだ。
なぜなら、戦うべき敵は間違いなく目の前にいるのだから。
「ブォォォォォォォォオオオオオンッ!!!」
耳を劈き周辺を揺るがす咆哮が大気を揺るがす。
ヒトの四倍はあろうかという巨体で大地を踏み鳴らし眼前へ迫る異形の象が、その長鼻を振り回して暴れ狂う。それをバックステップで機敏に躱しながら剣を握りこんだ。
四十層周辺に存在する荒地のような空間で、一つの異形と戦士が踊る。
異形の名はガネンテンと呼ばれる亜人型魔物。その長い鼻から繰り出される強烈な破壊力と、肥大化した足と体重に任せた踏み付けで多くのマーセナリーを苦しめた。だが、それに相対する男にとっては例え一対一でも危険な相手とは言えない。
一見して荒れ狂うガネン
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