5部分:第五章
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第五章
「旗に心を入れて」
「次の戦いで靖国に行く」
「だから今ここで」
「名前を書くんだ」
こう言い合ったうえでそれぞれの名前を旗に書き込んでいく。名前を書き込んだその旗を見て。彼等はまた言い合うのであった。
「じゃあな。靖国に行くまでも」
「一緒に戦うか」
「絶対にな」
笑顔で頷き合っていた。彼等は確かに誓い合った。終戦の日の暑い昼のことだった。
それから長い年月が経った。今年も暑い夏だ。
喫茶店の中に一人の老人がいた。クーラーの効いた店の中でのんでいるのはコーヒーだった。よく冷えたそのアイスコーヒーを飲んでいる。
「もうそろそろかな」
カウンターでそのコーヒーを飲みながら自分の左手首をちらりと見た。そこには腕時計がある。
「そろそろ来るな」
こう言った時だった。彼のちょうど真後ろの店の扉が開いて。そこから彼と同じような年老いた男が店に入ってきたのであった。
「よお」
「おう」
二人の老人は顔を見あわせ手を挙げて挨拶をした。そうしてそのうえで言い合うのだった。
「元気そうだな」
「お互いな」
二人共もう髪の毛は殆どなくなり顔も手も皺だらけだが背筋はしっかりとしている。今店に入って来た方もその歩き方はしっかりとしたものだった。
彼はカウンターにいる男の隣に座り。そのうえで尋ねてきた。
「赤西は?」
「もうすぐらしいな」
「そうか」
座ってすぐに尋ねてその言葉を受けて。笑顔になるのであった。
「もうすぐか。津田ももうすぐだ」
「あいつもか」
「今さっき擦れ違った」
彼は笑顔でもう一人に話したのだった。
「何でも曾孫におもちゃを買いに行ってからここに寄るそうだ」
「何だ、あいつも曾孫ができたのか」
「浜北、貴様に続いて二人目だな」
今来たばかりの老人は顔を崩して笑ってその浜北に告げた。
「曾孫ができたのはな」
「安永、貴様はまだ」
「馬鹿を言え、俺の孫はどれもまだ二十にもいっとらん」
「何だ、まだ二十にもいっとらんのか」
「息子も娘も中々子供が生まれなかったからな」
残念そうにこう返す安永だった。
「まあそれでも一人出来たら後は次から次だったがな」
「いいことじゃないか。孫は宝だぞ」
「ははは、確かにな」
今の浜北の言葉には顔を崩して笑う安永だった。ここでまた一人来たのだった。
「よお」
「おお、来たか」
「久し振りだな」
今度来たのは赤西だった。見れば彼女もかなり歳を取ってしまっている。しかし他の二人と同じく背筋はしっかりとしていて歩き方も速かった。
彼もまたカウンターに並んで座り。笑って言うのだった。
「最近女房がなあ」
「おお、もう結婚して六十年だったな」
「かなり経っているな」
「その女房がやけに元気でな」
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