ただいまはまだ遠く
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誰かの為の想いがあるのは誰でも一緒で。
自分が生きているだけでその想いを悲哀や怨嗟に沈めてしまう。
支えてくれるであろう近しい者達も憎まれ蔑まれ、自分が生きている限り悪感情の対象に含まれてしまう。
他人に存在を捧げるというのに、他人の為にならない自分しか居ない。
矛盾のイトに絡め取られた麗羽の心は、自己否定の渦に呑まれて堕ちていく。
自分が生まれた意味は、自分の生きてきた価値は……何処にある、と。
「いやっ……いやぁあああああぁぁぁぁぁっ!」
歌が聴こえた。
耳を塞ごうにも手を縛られて塞げない。
歌が聴こえた。
愛されている白蓮と、どうして自分はこうまで違う?
歌が聴こえた。
自分の幸せを願ってくれてる人よりも、彼らの願いの方が大切に感じた。
あの歌が、あの歌が、あの歌が、あの歌が、あの歌が頭から離れない。
優しい願いのはずのあの歌に、矛盾の理を突き付けられて、麗羽の心はひび割れて行った。
絶叫を上げて吐き出さなければならない程に。
幾瞬、ピタリ、と歌が止んだ。
彼女の絶叫を場に響かせようとしているかのように、一切の声が無くなった。
その隙にと、異質な気配が幾つか動いた。感じ取った紅揚羽が口を引き裂く。
「ひひっ、バーカ♪」
嬉しくて仕方ない、そんな笑みを浮かべて彼女は大鎌を振りかぶった。
後ろに向いた黄金の瞳に映るのは、薄緑色の髪を揺らした真っ直ぐな少女と、黒髪を揺らし涙に濡れて駆けてくる優しい少女であった。
「姫ぇぇぇ――――っ!」
斬撃は鋭く速く、駆けてくると言っても手を縛られている彼女達では為す術も無い。
一寸の間の出来事に誰も動く事が出来なかった。
噴き出した赤い血を見上げて、笑みを深めたのはやはり華琳と秋斗の二人だけであった。
†
一騎打ちの終端、猪々子は彼の言葉を聞いて服従する事を決めた。
猪々子はこの茶番劇の最中でずっと黙って何も言わなかったのは……彼の言葉を信じたからであった。
――クソ野郎……他に方法は無かったのかよ。
内心毒づくも、猪々子とて軍に関わってきたのだ。麗羽を生かす方法などほぼ無い事を理解していた。
思い出すのは彼の言葉。
『なぁ、文醜。お前が袁紹を助けろ。袁紹を生き残らせる為の場を整えるから此処で命を捨てるんじゃねぇよ。どうせ逃げても袁家の上層部に狙われるだろ? それを回避する為に、お前らが袁家を滅ぼせるようにしてやる。相応の対価を袁紹は支払う事になるが……お前と顔良が生きてたら袁紹も少しは救われるはずだ。明もそれを望んでる。
俺を信じられないなら明を信じろ。それも出来ないなら袁紹の
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