ただいまはまだ遠く
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。願いを託す彼に向けて拳を包む。忠義とは違う、約束の為の礼を。
幾分、ゆっくりと剣を掲げて、彼はまだ頭を垂れている麗羽を指し示した。
「袁家の兵士達に問おう。汝らは何ぞや。袁麗羽の臣か、それとも旧き袁家の臣か」
先程までとは打って変わった重い声が、兵士達に問いかける。
静寂は一寸で消失した。白馬義従が彼に礼を向けるのに対して、袁の兵士達は華琳と麗羽に向けて一斉に膝を折った。
真名を世界に捧げた彼女の誇りに、忠誠を誓う事を決めていた。
「これが答えらしい、曹孟徳殿」
「そのようね、徐公明」
笑みを深めて兵士達を見る華琳は感嘆の吐息を一つ落とし……覇気溢れさせ、鎌を振り上げた。
語りかけるのは、後ろで頭を垂れている彼女に向けて。
「袁麗羽! 汝は陛下の臣にして私の臣になった!」
「是、也」
麗しい声は服従を表し、優雅に華琳の方に向き直った麗羽がまた、拳を包んだ。
「故にそなたの臣下一兵率に至るまで私は愛そう! そして命じよう! 悠久の平穏をこの手に掴む為に!
袁麗羽とその臣下に命じる! 旧き袁家を滅ぼせ!」
『御意』
乱れなき返答が唸りを上げ、華琳の心を淡く擽った。熱量は十分、彼らは袁の支配から逃れた本物の兵士となった。
「白馬義従! 共に戦った同志に感謝を! 幽州の平穏は主が帰還するまで、否、それ以降もずっと共に守る事を誓う!」
向き直った彼らも、他の兵士と同じように拳を包んで華琳を見据えた。
平穏を願う心は同じ。彼女も幽州を守ってくれる王であるが故に、信頼を込めて。
大きく、華琳は息を吸い込んだ。
短いようで長かった官渡の戦い。その全てを思い返して、僅かに満たされた心を感じて、笑う。
「此処に、此度の戦の終結を宣言する! 勝鬨を上げよ曹操軍! 誇りを叫べ新しき袁よ! 想いを謳え白馬義従!」
轟音、天を衝き、空を震わせた。
それぞれの想いを胸に抱き、誇りを心に立て、一人ひとりが心を奮わせていた。
華琳は打ち壊し始めた世界を想って胸を高鳴らせ、不敵に笑った。
秋斗は捻じ曲げはじめた世界を想って拳を握り、不敵に笑った。
官渡の戦いは史実通りに曹操軍の勝利に終わるも、本来語られるはずの歴史とは異なった。
袁紹は存在を消し、袁麗羽が世界に生まれ出でた。
早回しのように進むこの世界で、黒の道化師と覇王はさらに針を加速させていく。
もはや止まる事のない乱世で、張ったイトは幾重にも渡り……全ては世の平穏の為に。
勝鬨を耳に入れて高揚感に身を任せている彼は一人、物見台の上、
「おっと」
ぐらり、と僅かにふらついた。
疲
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