ただいまはまだ遠く
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てくれない、と誰かが言った。
こんな世界に生きて居たくない、と誰かが言った。
結局誰も救ってくれなかった、と誰かが言った。
青髪の少女に会いたくなった。しかし会いたくないと矛盾する。
その口から紡がれる優しい声を聞きたかった。
その口から綴られる弾劾の声を聞きたくなかった。
無意識の内にぎゅうと握りしめた掌は刃の上。
赤い赤い血が目に入って、“この刃で殺した少女”を思い出す。
黒髪の少女の想いを繋ぐのは黒麒麟では無く自分だけ。その事実が、彼の頭を冷やしていく。
僅かに出来た思考の隙間で、どうにか認識した少女は一人。
赤い髪を風に揺らす少女は、秋斗に黄金の瞳を向けていた。
約束したのに、と責めるように。
責められれば、幾分だけ思考が上手く廻り出した。
視界を回して、魔女帽子を見つけて、彼の心は徐々に静かになっていく。
ただ彼女の為だけに、彼は黒を演じなければ。彼女の大切な存在を壊してはならない。
――壊れた黒麒麟じゃあ、意味ないもんな。
心配そうに見つめる彼女の翡翠の視線が、何よりも秋斗の心を癒してくれた。
深呼吸を繰り返して立ち上がる。もう、頭の痛みは消えていた。
記憶の混濁は無く、やはり自分の記憶しかない。
戻るチャンスを棒に振ったとは思わなかった。今この時では、溢れる感情が大き過ぎて壊れてしまう寸前だった。
大きすぎる自責の念に潰されるのは間違いない。他人である自身でさえこれなのだ。黒麒麟が嘘をついた、平穏を奪われた白馬義従の前で戻れば……間違いなく壊れる。
ため息を一つ。いつも通り苦笑を一つ。切り替えるにはそれだけで良かった。
「白馬義従、お前達の望みはなんだ?」
始まりは王の望みを聞いた。次は彼らの望みを聞こう。
涙を流しながら白馬義従は彼を見る。
彼の震えていた声を聞き届けた彼らが、鼻を啜って声を上げた。
「俺らは……公孫賛様が治める幽州で暮らしてぇ」
「大好きだ、って言ってくれたんだ」
「俺らだって、あの人が大好きなんだ」
辛い戦いを思い出せば、また涙を零すモノが溢れかえる。
それでも、と。彼らの代表として立つ、白馬義従の部隊長が大きな声を上げた。
「……我ら白馬義従っ……義に従い王の留守を守らんっ! だから、徐晃様……」
次第に消えそうになる声が、彼の耳によく響いた。
「俺らの王のこと、あんたに任せる」
「ああ」
短い返事をして、剣を両手で持ち……子供っぽく笑った。
「戻らないとか言いやがったらちょっと喧嘩して連れ戻して来るよ。友達だから」
――“黒麒麟の友達”だから。
嘘をついて、彼の心がビシリと痛む。
ざ……と白馬義従達が膝を付いた
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