ただいまはまだ遠く
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こえた気がした。
飄々と悪戯好きな声が聴こえた気がした。
拗ねながら、天邪鬼なおかえりを返す少女の声が聴こえた気がした。
不意に、はらり……と零れる涙。彼の頬と、白馬義従達の頬に涙が流れていた。
「“ただいま”って……一人でも多くに言わせてやって……くれないか?」
止まらない涙が流れていた。
胸が苦しい。そんな他愛ないやり取りを……普通で、甘くて、優しいそのやり取りを、彼も彼らも求めていたから。
ただいま、と彼は言えない。
おかえり、と彼は言えない。
今の秋斗はそれが苦しくて、悲しかった。
ただいま、と言いたかった。
おかえり、と言いたかった。
大切な平穏の時間に生きていたかった“誰か”が、白蓮に懺悔を向けたがっていた。
彼の言葉は、白馬義従の心に真っ直ぐ届いた。
嗚咽が漏れていた。怨嗟の心を、悲哀が凌駕していた。
ズキリ、と頭が痛んだ。
頭の中が真っ白になった。思考を正常に紡ごうとも紡げない。
脳内にフラッシュバックして思い出される光景が一つ。
聞き取れない早口で喋り倒す少女が、蕩けた表情で白蓮を見つめていたはずで。
――“あの早口はもう聴こえない……俺のせいで”――
白馬義従の絶望の泣き声が耳に響いていた。
白い世界が頭を過ぎる。
茶髪の髪が揺れていた。
赤毛を揺らす白馬の王が……“自分の腕の中で泣いていた”。
声が聴こえた。会いたいと叫ぶ声が。
声が聴こえた。こんな苦しい世界は嫌だと泣き縋る声が。
――“あいつはおかえりっていつも言ってくれたのに……壊したのは俺だ”――
急な自己乖離に立っていられなくて、膝から崩れ落ちた彼は剣に縋る。
荒い呼吸を繰り返し、
止まる事の無い涙を必死に拭った。
――救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい救いたい――
呑み込めたはずの感情の渦よりも、より大きな救済欲求が彼の心を包み込む。
嗚呼、と吐息が漏れた。吐きそうになった。
無駄な徒労を繰り返した黒麒麟。本当に無駄になった命達。自分が救いたくて、救えたはずの命、大切な友達も全て。
帰りたかった家と、下らなくても楽しい平穏の時間。
本当はそれが全てで良かった。死んでいる自分には過ぎた幸せで、それでも心から笑顔になれた暖かな刻。
思い出が溢れ、心を蝕んで行く。矛盾していた自分の罪過、自責の想いが溢れかえって潰されそうになった。
自分の感情では無いと思うのに、自分のせいだと責める声が止まらない。
偽善者、と誰かが言った。
ヒトゴロシ、と誰かが言った。
どうして助け
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