ただいまはまだ遠く
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淵に立つ彼女は既に切り替わっていた。
叩きつける大きな覇気は兵士達の膝を付かせる程に大きく、一人、また一人と膝を折って行く。
全員が頭を垂れた所で、大きな声を流した。
「此れで“袁紹”はこの世界から消えた! 此処に居るのは全てを世界に捧げた“袁麗羽”のみ! ただし、黒麒麟の提案通り、生殺与奪の権利は公孫賛と私が貰うこととする!」
兵士達に構わず、じ……と秋斗を見据える。
――白馬義従には俺から伝えろってか。
小さく頷かれて、秋斗は苦笑を零してから剣を引き抜いた。
「……白馬義従」
優しい声で語りかけるのは耐えている彼らに対して。
彼らの想いはまだ達成されていない。その上、怨嗟の矛先を向けるはずの対象に主と同じような姿を見せられて、蓄積された悪感情が行き場を失っていた。
――すっきりするなんて出来ないさ。お前らが本当にしたい事は、公孫賛と一緒に幽州を守ることなんだから。ごめんな、もう、乱世が終わってからしかその時は来ないんだ。
予測を話すことは無い。面と向かって謝ることなど出来やしない。
自分達が白馬の王と敵対する事は確定で、せめて彼らを彼女と戦わせたくなくて、彼は曖昧にぼかして伝えていくしか出来ない。
「友達想いの白馬長史は、もしかしたら帰って来ないかもしれない。そんな王が好きだから、憧れたから……守るのを辞めてまで戦いに来たんだろ?
だからそん時は、お前らの愛した主が帰ってくるまでもう幽州の大地を守る為以外で命を散らすな。ただ待ってるのは辛いだろうけどさ……お前らが死んだら、誰があの土地を守るんだよ」
諭す声音は戦えない辛さを知っているから苦しみに染まる。
「大事な主を呼び戻す為に戦いに来た。主の屈辱を晴らす為に戦った。その心は否定されるもんじゃない……けど、これ以上は本来の義に従って欲しい」
雛里からもたくさん聞いた。
幽州でどう過ごしていたか。自分が白蓮とどんな関係で、ほんの数か月の短い間にどんな日々を過ごしていたか。
彼女の愛した家がどんな場所か。彼女がどれほど幽州の大地を想っていたか。
自分の過去の平穏な時間を聞いた彼は……伝えたい事があった。
きっと俺なら、こう言いたい。
きっとその人達なら、こう返してくれる。
雛里が彼の代わりに一人で綴った言葉を。本当は返してくれるはずの言葉を。
「なぁ、お前ら」
少しだけ声が揺れてしまった。
震えているのは内側から出て来ない本当の自分の心か、それとも溶け込んでいる一人の少女の心か。
分からなかったが、胸が苦しかった。
「……“おかえり”って、迎えてくれる人がいねぇのは……哀しいよ」
ズキリ、と彼の頭が痛んだ。
優しくて甘い声が聴
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