ただいまはまだ遠く
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てくれますのね、あなた方は。
与えてくれる温もりが、彼女の心を生きたい意思に染め上げた。
これから先でも、きっと何度も折れそうになることだろう。挫けそうになることだろう。
しかし彼女達二人が共に生きてくれるなら、それだけで少しは救いがあった。
麗羽として生きていく。この二人の前でだけは、昔からずっと変わらない自分のままで居られる、と。
優しく降ろされて膝立ちになった。腱の斬られた片足の膝を上げ、一段、また一段と彼女の居る高みへと登って行く。
血と臓物で汚れた姿はみすぼらしいはずなのに、幻想的にさえ見えていた。
豪著に巻かれていた金髪は乱れ、破れた衣服を纏って彼女は登る。
目を逸らす事は無く、翡翠色の瞳が華琳のアイスブルーを真っ直ぐに射抜いていた。
階段の下では、明によって縄を解かれた斗詩と猪々子が拳を包んで膝を折る。皆の目には王を送り出す臣下のモノにしか見えない。
漸く辿り着いた最上段にて、彼女も二人と同じように縄を解かれる。
一陣の風が吹き抜け、螺旋の金髪が揺れ動く。
遠く、秋斗は笑みを零した。
己が願いは成就せりと、ただ不敵に。
近く、華琳は笑みを深めた。
己が思惑は為せりと、ただ不敵に。
優雅な仕草で、麗羽が拳を包み込んだ。昏さの無い眼差しに決意と覚悟を浮かべ、王たるモノの覇気を携えて。
「我が真名……“麗羽”を、この世界に捧げる事を此処に誓いましょう。
これより後、我が身は大陸に暮らす人々の為にのみあり。我が魂は安寧を願った人々の為にのみあり。我が心は乱世の果てに作られる平穏の為にのみあり。
生きる全ての者の想いを受け入れ、背負いましょう。
死せる全ての者の想いを掬い上げ、叶えましょう」
声は麗しさを失わず、されども人の欲を排した美しい旋律。
歌うように自身に科せられた対価を謳いあげれば、皆の耳に届き得た。
すっくと立ち上がった華琳は、拳を包む麗羽の横を通り過ぎ様、言葉を一つ。
「本当に遅過ぎるわよ。バカ麗羽」
呆然と、華琳の零した言葉を取り込めずに麗羽は目を見開いた。
その声がいつもとは違う響きを持っていたから、長い付き合いである彼女は気付く。
認めていない相手の真名を華琳が交換などするはずも無く、だからこそ、麗羽の真名を捧げさせる事には痛みを伴った。
後悔はせずとも心は痛む。文句の一つを零したのは、有り得ない厳罰を与えた事に対する弱さの発露。
信頼を置こうとしていた友としての、“華琳”から“麗羽”への言葉なのだ、と。
きっと今の華琳の背中は少し小さく見えるのだろう、と麗羽は思う。
しかし振り返る事こそ侮辱だから……何も言わずにそのままの姿勢を保った。
凛然とした空気を纏い、物見台の
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