ただいまはまだ遠く
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其処から何をすればいいかは、猪々子は分かっていた。
「斗詩、どけ」
短く放つ言葉は力強く、麗羽に縋るように身体を寄せていた斗詩の耳を穿った。
「な、なんで?」
「こういう時は言葉なんかに頼らない。あたいはバカだから、それくらいしか知んない」
ニッと歯を見せて笑う表情は子供のように。
猪々子は麗羽の耳元で、優しい声で囁いた。
「姫……あたいは姫に生きて欲しい。誰かから悪く言われたっていいじゃんか。少なくともあたいと斗詩はさ、姫のいいところいーっぱい知ってるし、大好きなんだから」
少しだけ、麗羽の震えが止まった。それでも彼女は動かなかった。
「思い出せよ。あたいと斗詩は“姫の両腕”だ。だからあたい達二人は姫の事を支えてもいいんだ。側に居てもいいんだ。好きに使ってくれていいんだ。でもあたい達は姫のこと大好きな腕だから、わがままでバカな片腕のあたいと、可愛くて優しい片腕の斗詩が……姫を生かしてくれる所まで連れて行ってやる」
何を……と斗詩が言う前に、猪々子は麗羽の服に噛みついた。
縛られた腕では安定しないが立ち上がり、麗羽の身体を無理やり引き起こした。
片腕が王を運んでいく。ゆっくり、ゆっくり……一歩一歩大地を踏みしめて覇王の元へと歩みを進めて行く。
目を見開いた斗詩も、同じように麗羽の服に噛みついた。
忠臣にして親友である二人に両側を支えられる袁家の王は……二人に運ばれている事に気付いて震えが止まっていた。
白馬義従の空気が変わった。怒りが圧倒的に大きかったが、戸惑いが少し混ざっていた。
物見台の上、その空気を感じ取った秋斗が……大きく息を吸い込む。
「お前ら、その二人は“袁麗羽の両腕”だろ? 王の為に働かない腕が何処に居る。白馬長史の為なら、白馬の片腕は同じ事するだろうが。
白馬の片腕を止めなかったお前らに、あいつと一緒に戦ってたお前らに……そいつらを咎める権利なんざ、無ぇよ」
感情を排除された冷たい声によって、怒りの気が一気に収束していった。
大地に突き刺さった斧を見るモノが幾人も居た。
牡丹は白蓮の為に戦ったのだ。彼女の為の片腕であったのだ。
もし、白蓮が同じ状況であったなら、牡丹は白蓮を引き摺ってでも生かそうとするだろう。そんな事は、誰もが理解していた。
もう誰も、一言も言葉を零せなくなった。
ただ無言で彼女達が進んで行くのを見るしかなかった。
「……猪々子さん、斗詩さん」
引き摺られながら着いた階段の前、麗羽が弱々しい声をぽつりと零す。
「此処で降ろしてくださいまし……後は自分で、行きますわ」
階段の前、麗羽は脚を組んで椅子に座る華琳を見上げて涙を一つ。
――まだ、わたくしの両腕で居
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