ただいまはまだ遠く
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であったなら、雪蓮であれば自分の命を散らすだろう。袁家と孫呉の違いはその点。王が家の為に死ねるか否か、である。
当主の命は重い。家の存続を考える上では取引材料として重過ぎる。
故に、袁家の此れは有り得た一手。麗羽が生きるかもしれないとなった時点で、暗殺される可能性は予測可能。
明や夕の監視に使わされていた影のモノは間違いなく兵士達の中に居るのだ。動きの制限された麗羽が目の前を通り過ぎるなら、国家反逆の大罪を一人に着せてしまえる絶好の好機で、袁家はその一手を躊躇いなく行える。
何より、郭図含む袁家の上層部は、初めから敗北した場合の尻尾の振り方すら考えていたのだから、暗殺という手段は事前に命令されていて当然だったのだ。
捕えてある郭図に聞いても答える事は無いだろうが、長い期間脚を引っ張り合ってきた明は郭図の思考も上層部の思考も読めていた。
だから、袁家の昏い部分を誰よりも知る明は麗羽を守った。
麗羽の心を叩き折って、猪々子と斗詩が動く事を利用して隙が出来た振りをして、袁家のネズミを炙りだしたのだ。
ちら、と明は秋斗の方を見やる。
小さく頷いたのが見えて、彼女は微笑んだ。
――うん、これで夕の望んだ通りに……夕が真名を交換した子を生き残らせる事が出来るかんね。
彼女はただ、死んだ夕の望みを叶えたい。
残された想いを繋ぐなら、彼女の命を喰らったなら、彼女の作りたかった世界を……それが今の生きる理由。
秋斗がやろうとしている事を知った時点で、彼女は袁家の内部事情を洗いざらい吐いている。
彼女は夕の為に、麗羽を生かす為の手札の一枚となっていた。
――まさか味方に殺されそうになるなんて……さすがに兵士達じゃ考えられないかー。
白馬義従も、袁紹軍も、曹操軍も誰も言葉を発さないその場は異質な空気に包まれている。
三人の元に着くと、斗詩が必死に麗羽に話し掛けていた。
涙ながらに話し掛けても麗羽は反応を返さない。ただぶるぶると震えるだけで、彼女は恐怖に打ち震えていた。
猪々子の視線が明に突き刺さる。強い眼差しは守ってくれた事への感謝と信頼。
舌を出した明はいつもの笑みだけを返して舌を出した。
「別にあんた達の為じゃないし。あたしは夕の為にしか動かないもん」
「それでも……ありがと」
「ひひっ、いいよ♪ せっかく与えられた機会なんだからあんた達は掴み取りな。裏切り者のあたしに出来るのはこれくらいしかないけどさ」
「気にすんな。あたいが斗詩と姫を大好きなように、お前だって夕の事大好きだったんだから」
「……あんがと、猪々子。
あはっ♪ じゃあそろそろバカなとこ見せてよ」
自分は救えなかったが、せめて、と笑った。また明は隣に並ぶ。
――言われなくてもっ。
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