暁 〜小説投稿サイト〜
老騎兵
1部分:第一章
[1/2]

[1] 最後 [2]次話

第一章

                        老騎兵
 戦争であった。しかしこの戦争はだ。
「進め!」
「祖国の為だ!」
 少なくとも彼等はこう思っている戦争だった。
「折角独立できたんだ」
「それならだ!」
 こう言ってだった。果敢に戦う。ここはフィンランドである。独立して暫く経ったこの国にだ。ソ連が圧倒的な戦力で雪崩れ込んで来たのだ。
 彼等はだ。その凍て付いて氷に覆われた戦場の中で言った。
「ソ連は平和勢力じゃなかったのか?」
「確か共産主義は人類に幸福をもたらすんだよな」
「戦争をしないんだったよな」
 言うのはこのことだった。
「それで何でだ?」
「何でこの連中は攻めて来てるんだ?」
「しかもこれだけの数でな」
 目の前にはソ連軍の大軍がいる。桁外れの数の歩兵に戦車、それに大砲だ。とにかく数で押し切ろうとしているのは明白だった。
「あれは嘘だったのかよ」
「どうなんだ?」
「嘘に決まっている」
 こう言ったのは六十になろうとする軍服の男だった。ヘルメットから出ている髪もカイゼル髭も真っ白であり顔には皺がある。その彼が言うのであった。
「共産主義者の言うことなぞ信用していたのか?」
「まあそう言われますとね」
「話は一応聞いてましたし」
「ロシア革命で」
「わしはあの革命の時少しだけあの国にいた」
 そのソ連にだというのだ。
「それでだ。見たからな」
「相当なことがあったそうですね」
「もう滅茶苦茶だったそうで」
「革命に逆らう者は死」
 一言であった。
「誰でも彼でもどんどん殺していったぞ」
「全然平和じゃないですね」
「ロシアより血生臭いですね」
「あの国はロシアの時より性質が悪いぞ」
 老人はまた言った。
「そう、血に餓えた野獣よ」
「野獣ですか」
「また熊ですか」
「そうだ、血に餓えた熊だ」
 野獣がそのまま熊になっただけであった。
「だからだ。気をつけろ」
「ええ、わかりました」
「それじゃあ」
 こんな話をしてだった。彼等はここで馬に乗った。そうしてだった。
「スッタ大佐、それで」
「これからどうするんですか?」
「無論退くつもりはない」
 その老人スッタ大佐は毅然とした言葉で返す。彼も己の黒い馬に乗っている。
「まずは迂回してだ」
「はい」
「それで、ですね」
「正面にいる歩兵部隊と共同してあの敵を叩く」
 そのソ連軍の大軍をだというのだ。
「いいな、それで」
「ええ。あんな共産主義者共に祖国を荒らされてたまるものですか」
「やってやりますよ」
 金髪に青い目の若い兵士達が不敵な笑みと共に言った。
「それじゃあ今から」
「行きますか」
「まずは銃撃を仕掛ける」
 スッタは己の部下達に話す。
「そ
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ