5部分:第五章
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第五章
「幾ら死ぬ身でもここまで酷くされるとはな」
「これから死ぬのに何を言っているのだ」
「全くだ」
だが執行官達はそんな彼をせせら笑うばかりであった。
「罪人の分際でな」
「さっさと地獄に落ちろ」
「いえ、私からも御願いします」
見かねた森田がその執行官達に対して言ってきた。
「ここは」
「ふん、まあいいだろう」
「わかった」
執行官達は不満ながら彼の言葉を受けて縄を緩めた。山下はそれを受けて遂に森田に対して最期の別れを告げるのだった。
「ではよく御覧になっておいて下さい」
「はい」
「人間だから粗相をするかも知れません」
そしてこのことも断った。彼はそうは言ってもそれでも誇りは失ってはいなかった。
「ですがそれを修飾して言わなくてもいいです」
「いいのですか?」
「ありのまま伝えて下さい」
こう森田に言うのであった。
「後のことは後世の日本人達に任せます」
「子孫達がですか」
「そうです。彼等に任せます」
そういうことなのだった。彼の考えは。
「私は私のままで全てを任せて旅立ちます」
「わかりました」
「そして」
山下は一呼吸置いてから。またしても森田に告げてきた。
「これも腰折れですが」
「はい」
「聞いて下さい」
「わかりました」
森田が応えて頷いたのを見てそれから詠いはじめた。その歌は。
待てしばし 勲残して 逝きし戦友 後な慕いて 我も行きなん
こう詠ってからまた森田に問うた。
「北はどちらですか」
「あちらです」
森田がある方向を指差すとそちらに身体を向けて一礼した。そして言うのだった。
「皇室のいやさかを祈り、日本の復興の早からんことを祈ります」
これが彼の最後の言葉になった。森田はその言葉が終わってから弔いの読経に入った。しかし執行官達はそれを聞いても苛立たしげな様子を見せるだけであった。
「何をしている!?」
「それは何だ!?」
「仏教の臨終の儀式です」
彼はこう彼等に告げた。
「ですからお待ち下さい」
「ふん、勝手にしろ」
「どのみちもうすぐくたばるのだからな」
読経が終わった。森田は自分の両手で山下の縛られている両手を握り締めそのうえで。彼に言葉をかけた。
「では将軍」
山下は静かな顔でそれを聞いているだけであった。
「心おきなく旅立って下さい」
彼は微笑んでそれに頷いた。そうしてそのうえで別れとした。
執行官達は二人の間に入りその手を払いのけた。それから森田を後ろに追いやってせわしく縄を切った。これで全てが終わった。森田はここに至って遂に涙を流した。その涙はとめどめなく流れ出て頬を濡らした。彼はそれを拭うことをせず流れるに任せていた。
山下奉文の最期はこのようなものであっ
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