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第一章
山下将軍の死
歴史とは時として非常に無慈悲なものである。
名声を得た人物が最後には汚名を被り死ぬ場合もある。英雄が罪人として処刑される場合もままある。
それはこの人山下奉文も同じだ。彼はマレーの虎と恐れられた猛将であった。
頭は丸坊主にしており顔は厳しい。そのうえ巨体で体重もかなりのものであった。だがその頭脳は明晰であり統率にも秀でまさに将たるに相応しい人物であった。
この時代の帝国陸軍には如何せん適材適所ということには甚だ欠けていたが彼を前線指揮官にしたのは正解であった。彼はマレーで活躍し瞬く間にシンガポールを陥落させた。
この時に敵将であるイギリス陸軍中将パーシバルにイエスかノーかと迫ったのは有名な話である。これも相手を侮辱したのではなく一気に結論だけを迫ってのことだ。
しかし歴史にある通り日本は戦争に敗れた。戦局の劣勢はどうしようもなく彼も降伏と共に投降することになった。彼が降伏すると聞いた時に連合軍の司令官であるマッカーサーは一つ面白いことを考えついたのだった。そしてすぐにそれを幕僚達に話した。
「彼に来てもらおう」
「彼といいますと?」
「あの彼だ」
サングラスの中に面白そうな目の色を隠しての言葉だった。
「彼に来てもらおう」
「ですが閣下」
「あの方は今日本におられますが」
幕僚達はマッカーサーのその言葉に対して怪訝な顔で返した。
「それでもですか?」
「フィリピンにまで」
「そうだ。来てもらう」
彼はそれでもだというのだった。
「わかったな。すぐにだ」
「はあ。それでしたら」
「わかりました」
彼等もマッカーサーの考えがわからないまま頷いた。そうしてその言葉通りに今その人物をわざわざ日本からフィリピンまで呼び寄せたのであった。
その降伏の場であった。降伏にも調印が必要だ。そしてそれをするのもまた指揮官の責任である。彼はその責を果たす為に今山を降りその場に現われた。
「かつてはわしが降伏を迫ったが」
「惨いものですね」
「これも天命か」
その調印の場に行く時の言葉であった。部下達とこの話をしていた。
「そのわしが降伏するとはな」
「では閣下、ここは」
「我々が代わりに」
「いや、いい」
だがそれはいいというのだった。
「わしが指揮官だ。ならばわしが調印する」
「左様ですか」
「それが務めだ」
あらためて言うのであった。
「だからだ。行こう」
「はい、それでは」
「参りましょう」
彼等はこんな話をしながら降伏の場に赴いた。するとそこにいたのは。山下が知っている彼だった。痩せたその顔を見て愕然とした。
「パーシバル閣下、この男ですね」
「この男が山下奉文ですね」
「そうだ」
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