三十九話:守るという選択
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時の感触を。俺は手の平を見つめながら流れ落ちていった真っ赤な血を思い出す。俺と同じ血を引く兄さん、槍に貫かれてもなお俺が泣かないように優しい声で歌ってくれた兄さん。
ボロボロの銀の時計を取り出して、その傷痕を優しく撫でる。どれだけの痛みを、苦痛を、悲しみを兄さんが負ってきたかも俺は知らない。ただ、守られていただけなんだ。何も教えてくれようとしなかった。俺を守る為に全てから遠ざけた……。そのことに思うところがないってわけじゃない。でも―――
「どんな兄貴でもさ、弟や妹にとっては大切なたった一人の兄貴なんだよ。
だから……あんまり自分を卑下するなって」
「……そうなのでしょうか?」
「ああ、少なくとも俺はそう思っている。……兄貴を殺した俺が言うのもなんだけどな」
そう言って自嘲気味に笑う。背を向けているアーサーにはその顔は分からないが何となく雰囲気で察したのか、肩をすくめて大きく息を吐き出す仕草をする。俺はそんなアーサーに悪いなと思いながらも話を続ける。
「ルフェイちゃんだってお前の気持ちは分かっているさ。ただ、そこからどうするかは俺達の力じゃどうしようもないけどな」
「そうだといいのですが……」
「まあ、相手がどんな選択をしても俺のやる事は変わらない。
大切な者を何に代えてでも守り抜く……それだけだ」
家族を守る為にその誰かを傷つける選択をしてしまう。そのせいですれ違いだって起こるかもしれない。でも……守り抜くことが出来たらそれで充分なんだ。家族が生きていてくれれば嫌われたって構わない。俺はそう思っている。
そんな事を考えていたら話が無くなって、再び沈黙が訪れていた。
俺はそんな沈黙が嫌だったので証の歌を口ずさみ始める。
逢いたくてしょうがない相手―――黒歌のことを想いながら。
一ケ月にわたる厳しい修行を終えたグレモリー眷属と黒歌達は魔王主催のパーティーに参加していた。本来であれば何事もなくパーティーを楽しめるはずなのだが今回は状況が違った。パーティー会場の近くに乱入者と言う程でもないが部外者達が現れたのだ。その部外者達は分かる人間には分かる程度の魔力を発しグレモリー眷属達を外に出る様に誘導したのである。
その部外者達とは―――
「元気だったかしら。黒歌さん、ルフェイ」
「ヴァーリ……ルドガーはどこにゃ?」
「ヴァーリさん、お兄様は?」
ヴァーリである。彼女はこうしてグレモリー眷属と黒歌達を誘き出してルドガーとアーサーに会わせようとしているのである。因みにアーサーは渋々ではあるが会うだけならと了承したが、ルドガーには抵抗してでも会いに行かないだろうと予測して美候との模擬戦中に背後から襲って気絶させて連れて来たのも彼女だ
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