4部分:第四章
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とりあえずは無事だった。そのうえでパラシュートを外して周りを見るとそこには何もない。最初はそう見えた。
「とりあえずは助かったが」
それでもまだ安心はできない。機体から離れたパイロットは丸腰だ。武器なくして戦場に放り出された形になるのだ。早いうちに安全な場所に逃れるなり友軍に助け出されないといけない。彼は立ち上がるとまずは周りを見回した。見れば周りには長い水草が見える。他には何も見えない。
「沼地かな。ついてないな」
まずはそれを思い舌打ちする。次にコンパスを取り出す。落下の衝撃でも幸いにして壊れていないコンパスを見つつ南に向かうつもりだった。南に自分の基地があるからだ。
「こっちか。よし」
方角を確認してから向かうことにした。歩きだしたところで顔の前を何かが横切った。
「!?」
それは淡い緑の光を放っていた。彼にはそれが何かすぐにわかった。
「蛍か」
それしかなかった。今までロシアでは見たこともなかったものだ。その蛍が彼の前を横切ったのである。
蛍の光は左から右に向かう。それを目で追うと周りには多くの蛍が飛んでいた。ふわふわと飛びながら辺りを輝かせている。見れば蛍達は時々互いに打ち合ったりしている。彼はその姿を見てあるものを思い出したのであった。
「同じなのか」
自分が今までいた戦場と同じだと。そう思ったのだ。蛍達が今まで戦っていた自分達の姿と重なる。戦場で散る自分達の姿と。
「俺達と。いや」
ここでまた思うのだった。
「俺達は。蛍だ」
それが今彼が思ったことだった。自分の周りに淡い光と共に舞う蛍達を見ながら。
「死ねばこうして舞うのかもな。魂が」
蛍の光が魂に見える。その気持ちを抑えられなくなったのだ。
一旦思えばそれが支配していく。彼は立ち尽くして蛍達を見る。その気持ちを抑えられなくなったまま見ているのだった。
「空で戦い」
上を見る。まだ戦いは続いている。炎はもう星に見える。無数の星の瞬きが出ては消えている。それを見ながら思うのだった。
「空で散る。そしてその魂は」
蛍になるというのだ。そう思えるのだった。
「そして。蛍になっても」
戦っている。そのことに何かやりきれないものを感じる。しかしそれでも。
「ならいいさ。それでも」
彼は言った。首を横に振った後で。
「戦ってやる。蛍になっても何になっても」
決意を固める。それは軍人だからこその決意だった。その覚悟はもうあったのだ。
その決意を固めたうえで歩きだした。周りにはまだ蛍達が舞っている。自分達が。これから何があろうと蛍になろうと戦う、軍人である限り。その決意を胸にまた戦場に戻るのだった。戦士として。
戦場の蛍 完
2008・2・7
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