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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第4章 “妹達”
八月一日・夜:『アイテム』
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体の知れない茸や木の実、植物のサラダ。最早、コールタールにしか見えないホットドリンク。全て、奥の厨房で師父が作っているものだ。
 それを慄然たる思いで並べた嚆矢は、戦慄に打ちひしがれている。何故か? 単純な理由だ。


「ああ、いつ来ても此処の品揃えは最高ね。店主に感謝を伝えて頂戴な」
「は、はぁ……」


 それを喜悦に満ちた表情で見詰める、『玖 汀邏(クゥ テイラ)』と名乗った海神の姫君(マインドフレイア)の為に。胡乱げに頷けば、その姫君の左右に(はべ)る男女二人、『沱琴(ダゴン)』と『沛鑼(ハイドラ)』と呼ばれた者達が此方を注視している事に気付く。
 一挙手一投足を見逃さぬように。まるで、嚆矢の()()()()()()()()()()()()ように。


《ふん……舟虫(フナムシ)(つがい)風情が────誰の許しを得て、(わらわ)の前で(おもて)を上げるか》
「「─────!?」」


 対した“悪心影(あくしんかげ)”の燃え盛る三つの瞳と恫喝に近い言葉に、従者二人は臨戦態勢とばかりに剛拳の代表格“八極拳(ハッキョクケン)”と柔拳の代表格“太極拳(タイキョクケン)”を構えようとして────


「────うん、美味しいわ。やはり脳髄は哺乳類のモノに限るわね。猿のモノ、御代わりを戴けて?」
「あ、はい。直ぐにお持ちします、お嬢さん(リトル・ミス)


 一触即発じみた空気の中で、そんな言葉が。それを天の助けとばかりに──実際は魔の囁きだろうが──嚆矢は、師父の真似をしながら(うやうや)しく礼をする。
 それに、ナプキンで口許を拭っていた汀邏はキョトンと、一瞬呆気に取られた後で。


「ぷっ、くふふ……いつ以来かしらね、小娘扱いされるなんて」


 口許を隠し、上品に笑う。悪意の無い、まさに小娘のような純朴な笑顔で。それに、従者二人は驚いたかのように“悪心影(あくしんかげ)”から注意を外して。


「あ、済みません。気分を悪くされたのでしたら……」
「いいえ、寧ろ嬉しかったわ……くふふ、まだまだ私もいけるかしらね?」


 だがもう、姫君は純朴さを包み隠すように。淑女の嗜みか照れ隠しか、艶やかさの薄絹(ヴェール)を纏いながら笑っている。
 だから従者達は、今度こそ嚆矢に向けて。陰惨な、夜の磯辺に屯する毒虫じみた殺意を漲らせて。それを受けた嚆矢が、肌を粟立たせるくらいには威圧して。


「────ねぇ、叔父様(おじさま)?」
「…………あの、まだギリギリ十代なんですが」
「あら、そう? でも、私から見れば叔父様だわ。煌めく黄金瞳の、素敵なお・じ・さ・ま」

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