1部分:第一章
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名前だからな」
「そうだな」
リヒャルト=ワーグナーのことである。ドイツの楽聖とまで言われているがヒトラーは彼の音楽を十一歳の時にはじめて聴いてから終生愛し続けていたのである。
「それを言えばな」
「御前の親父さんはあれか?音楽家にしたくてその名前にしたのかい?」
ヴォルフが彼に問うてきた。
「やっぱりそれで」
「さあな。そこまでは知らないさ」
リヒャルトはコクピットの中で首を捻ってヴォルフのその問いに答える。彼もそれはよく知らないのだ。
「実際のところはな」
「そうなのか」
「まあ。名前なんて今はどうでもいいさ」
リヒャルトは前に見て真剣な顔で言ってみせた。
「とにかく。今は生き残らないといけないからな」
「そうだな」
「全くだ」
他の三人も彼のその言葉に頷いた。やはり真剣な顔になっていてそれまでの和気藹々としたいささか戦場には似合わないものは消えてしまっていた。
「何か。どんどん激しくなってきているしな」
「特にここはずっとだな」
彼等はそう話をしだした。
「あの禿のおっさんの街は」
「ああ」
ソ連の国父レーニンのことである。今彼等はレニングラード上空にいるのだ。この街を巡ってドイツ軍とソ連軍は激しい攻防を繰り広げてきているのである。
「陸軍も随分攻めあぐねているみたいだな」
「何でも守りがやけに堅いらしいぜ」
カールがヨゼフに言った。
「建物に立て篭もっていてな。女も子供もガリガリになって武器を持ってな」
「おいおい、女も子供もかよ」
ヴォルフはそれを聞いて思わず声をあげた。
「男だけで戦えばいいだろうに」
「そうも言っていられないんだろう」
カールは今度はヴォルフに答えた。
「何せ今イワンは崖っぷちだからな」
「さっさと落ちれば楽になるんだがな」
リヒャルトは半ば無意識のうちにこう突っ込みを入れた。
「あいつ等も俺達もな」
「向こうにも向こうの意地があるんだろ」
ヨゼフが言葉を返した。
「そこんところがどうしようもないから戦争になってるんだしな」
「それもそうか。しかし本当に敵がいないな」
「ああ」
「今日はもういないな」
仲間達はリヒャルトのその言葉に応えた。
「じゃあ帰るか」
「そうだな。燃料も少ないしな」
「しかし。ここの寒さは本当に酷いな」
リヒャルトはまた言葉を出してきた。今度の言葉は苦笑いを含んでいた。
「話には聞いていたが燃料まで凍るなんてな」
「まあロシアだからな」
「それも普通だろ」
「ドイツでもかなり寒いんだがな」
そのドイツから来ている彼等だ。しかしそれでもこの寒さには参っていた。ロシアの冬はそこまで桁外れのものであるのだ。
「それ以上なんてな」
「それでもちゃんと夏があるだろ」
「まあな」
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