第三十八話 もう一つの古都その十四
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「あのマスコット」
「せんと君ね」
「あれはどうにかならなかったの?」
「大不評だったわ」
裕香もそのマスコットについて嫌そうな顔で話した。
「実際に」
「やっぱりそうなのね」
「だって可愛くないから」
まさにそれに尽きた、あのマスコットが県民から全く人気がない理由は。
「というか不気味じゃない」
「確かにあまり見た目はよくないわね」
「何でかあのキャラになったのよ」
奈良県のマスコットがだ。
「知事さんの決定でね」
「知事さんにセンスないの?」
「結構やり手かも知れないけれど」
政治家としての能力はだ、しかし政治家としての資質と芸術的才能はまた別だ。才能の分野が全く違うのだ。
「それでもね」
「センスは、なのね」
「そうしたものを選ぶね」
「談合も噂されていたわね」
黒蘭は政治では付きものの話も出した。
「そういえば」
「いや、幾ら談合でもね」
「もっといいものを選ぶわね」
「普通のセンスだとね」
「確かにあまりにも酷くて」
「かえってインパクトがあってね」
それでだった、あのマスコットについては。
「かえって注目されているけれど」
「注目されているのなら成功かしら」
「ゆるキャラとしては?」
「ええ、マスコットとしては」
これが黒蘭の見方だ、つまりどれだけ可愛いゆるキャラでも注目されなければ意味がないということである。
「成功かしら」
「そうなるの?」
「私はそうも思うけれど」
こう裕香にも言うのだった。
「どうかしら」
「そうかも知れないけれど」
それでもとだ、裕香は黒蘭に顔を曇らせて答えた。
「奈良県民としてはね」
「嫌なのね」
「絶対に嫌よ」
明らかな本音だった、裕香の。
「そんなことは」
「他のマスコットがよかったのね」
「折角まんとくんやなーむくんが出て来たのに」
他ならぬせんとくんがあまりにも評判が悪く出て来たのだ、その為この騒動は余計に大きな話になったのである。
「他にはな〜らちゃんもいるわ」
「そういう方がいいのね」
「あれ妖怪じゃない」
せんとくんは、というのだ。
「どう見ても」
「それは言い過ぎ、でもねえな」
薊は言いかけたところでそれを止めた。
「あそこまでいくと」
「そうでしょ、おまけに一家まで出て来たから」
「それ悪ノリだろ」
「グッズまで一杯出てね」
嫌そうに言う裕香だった、それも実に。
「もう嫌で仕方ないわよ」
「嫌いなんだな」
「嫌いっていうか嫌なのよ」
この二つの感情はまた別だった、裕香の中では。使う漢字は同じでもそこにある意味はまた別なのである。
「あのキャラは」
「そうか」
「薊ちゃんも奈良県民になればわかるわ」
これが裕香の言葉であり本音だった。
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