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最後のストライク
3部分:第三章
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川には死体が埋め尽くさんばかりに浮かんでおり、道の端や家の焼け跡には人々の焦げて炭の様になった屍があった。東京は焦土となっていた。
「アメリカが本土に来たらこうなるんだろうな」
 隣にいた同僚がその焼け野原を見て言った。
「日本全土が」
「そうじゃろな」
 石丸はその言葉に頷いた。
「そうなったら何もかも終いじゃ」
「ああ」
「それは何とかせんとな。えらいことになる」
「御前、何処に行くんじゃ?」
「多分鹿屋じゃ」
 彼は答えた。
「そこで。死んで来るわ」
「そうか、靖国で会おうな」
「ああ」
 本当は別の場所に行きたかった。だが今は言えなかった。彼は死んでも別の場所に行きたかった。靖国に魂はあってもそこに行きたかったのだ。
 その一月半後で彼は鹿屋に行くことになった。目的は決まっていた。沖縄に攻めて来ているアメリカ軍に対して特攻を敢行する為であったのだ。
「多くは言わない」
 鹿屋にいる第五航空艦隊司令長官宇垣纒中将は石丸達特攻隊の将兵に対して多くを語ろうとはしなかった。
「ただ。靖国で会おう」
 それだけだった。彼もその内面に苦渋を噛んでそこにいたのだ。平静なのを必死に装っていたのだ。
 皆死ぬのを待っていた。誰も多くは語ろうとはしない。それは石丸も同じだった。ただ、外の店で食べた卵丼が忘れられなかったのは覚えている。
「美味いな」
 彼もその卵丼を食べた。そしてこう言った。
「東京にもこんな美味いものなかった」
「美味しいですか?」
 それを聞いたその店をやっている老婆が石丸に声をかけてきた。
「兵隊さん達のお口に合えばいいですけど」
「いえ、そんなこと」
 この時代卵どころか米さえ満足には手に入らない。そんな中で作ってくれたものである。どうして美味くない筈があろうか。
 老婆が作ってくれた卵丼には心が入っていた。死地に向かう特攻隊員達を思う心が。だから彼はそれを食べて美味いと感じたのだ。この上なく美味いものだった。
「こんな美味いもの、東京でもなかったです」
「東京から来られたんですか」
「実家は佐賀ですが」
「ああ、佐賀」
「佐賀に美味いものはないですから。余計に」
 石丸は自嘲めかして言った。佐賀に美味いものなしとよく言われる。それは彼もよく言われていた。九州の間でもそれで馬鹿にされてきたものだ。その場であえてこう言ってみせたのだ。

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