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最後のストライク
2部分:第二章
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った。特攻隊がはじめて登場したのは六月のレイテ沖海戦においてであった。そのあまりもの攻撃にアメリカ軍は戦慄を覚えた。
「これが日本軍だというのか」
 そう、これが日本軍であった。命すらぶつけて戦う、喜んで散華する、それが日本軍の将兵であった。彼等は決して洗脳されていたわけでも狂っていたわけでもなかった。若しそうだとしたならば何と救われる話だっただろうか。誰も狂ってはいなかった。冷静だった。冷静に命を賭けていたのだ。
 回天という兵器がある。特攻用の兵器であり自らが操縦し、敵艦を撃沈する人間魚雷だ。これを開発した二人の海軍士官はまず自分達が最初に乗り込み敵艦に向かって行ったのだ。あくまで祖国の為に。後ろにいる家族の為に。彼等は向かって行ったのであった。
 そして石丸もその中に入った。土浦海軍航空隊である。大学にいた彼は少尉に任官してそこにやって来た。ここはその特攻隊の養成所となっていた。生きては決して帰れぬ兵士達。彼もまたその中の一人になったのだ。
 彼は死ぬ為に訓練を続けていた。その中の十一月のことである。彼は当時銀座にあった名古屋軍の球団事務所を訪れた。
 この時帝都も空襲により所々が焼けていた。その焼け跡を見ながら彼は事務所に向かっていた。
 道を行けばモンペ姿の女ばかりが目に入る。そして広告やチラシは戦争のことばかりだ。全て戦争のことであった。贅沢は敵だ、欲しがりません勝つまでは。そんな言葉ばかりが目に入った。それと焼け跡が。
 銀座も同じだった。かっての賑わいはそこにはなかった。戦争というものに銀座も飲み込まれ埋もれてしまっていた。彼はその埋もれた街の中を歩いていた。
 そして事務所を訪れた。すぐにマネージャーが出て来てくれた。
「おう、君か」
「はい」
 石丸は笑顔で挨拶に応えた。
「海軍にいるそうだね」
「はい、零戦に乗っています」
「そうか、それは何よりだ」
 マネージャーはそれを聞いて顔を綻ばせた。実は石丸は海軍が好きで兼ねてより零戦に乗りたいと言っていたのだ。その願いが叶えられたことに彼は喜びを見せたのだ。
「本当に。よかったな」
「この事務所まだやっていてよかったです」
「ああ、野球ももう終わりだからな」
「はい」
 職業野球も十一月で一時休止となることになっていたのだ。彼はその前に事務所に来たかった。そして今ここに来たのであった。

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