第6章 流されて異界
第111話 試合開始直前
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デス星団のハリ湖出身者や窮極の門の向こう側からやって来た存在などは居ません。
――少なくとも、俺以外には。
まして、俺の知っているコイツのそっくりさんの手の甲には、ナイフか何かで刻まれたかのような、かなり角ばったルーン文字が刻まれていたはずなのですが、今のコイツにはそんな物は一切存在してはいない。
もっとも、完全に別人。今俺の目の前で妙に空っぽな笑みを浮かべる青年が、ハルケギニアで自らの事を名付けざられし者だと名乗ったヤツの異世界同位体だとも思えないのですけどね。
何故ならばコイツは、俺の偽名の方は知って居ましたから。
「やれやれ。昔馴染みに対するとは思えない程の冷たい態度だね、こりゃ」
北から吹いて来た冷たい風が、ヤツのあまりクセのない……。この部分だけは俺のかなり硬い、寝癖で直ぐに爆発したようになる髪の毛と違い、かなり柔らかめの髪の毛を右手で整えながら、そう嘆息するかのように、やや芝居がかった台詞を口にする自称リチャードくん。
但し……。
矢張り、感情が籠って居ない――。いや、周囲の普通の人間の目で見つめて居る分には、薄い苦笑にも似た笑みを浮かべて俺と会話を続けている自称リチャードくんの姿を認める事が出来るのでしょう。……が、しかし、気を読む事が出来る俺の目……見鬼で見つめると、今のヤツが発して居るのは無でしかない事が判る、そう言う状況。
楽しいから。面白い事があったから。何か嬉しい事があったから笑って居るのではない。前後の状況から判断して、ここは微苦笑を浮かべるのが相応しいと判断したから、機械的に顔の筋肉を動かして笑顔を形作っただけ。
そう言う事が判ったと言う事。
有希や万結とは違う。彼女らは人工生命体に発生して間もない心……と言う物の表現が苦手なだけ。俺には表面上は無と言う表情を貼り付けた彼女らの心の動きが、ある程度理解出来ます。まして、自らの望みの成就を願って笑みを他者に見せる事を拒み続けているタバサに至っては、表面上は無を装っているけど心の方は間違いなく動いている。
その三人に比べると、俺の正面に立つ二人……。見た目は日本人そのもののランディ&リチャードの二人組は明らかに――
「おいおい。何時までそっち側の振りを続けるんだ、兄弟」
――人外の存在。背筋に走る冷たい感覚と共に、そう結論付けた俺に対して、更に会話を続けて来る自称リチャードくん。ただ、俺の耳には、そっち側の、と言った部分が、何故か『普通の人間の』と言ったように聞こえた。
「気付いて居るんだろう、オマエはこっち側の存在だって言う事に」
人外の化け物のクセに、そう言う嘲りさえ聞こえて来そうな雰囲気で続ける自称リチャードくん。
成るほど。これは低レベルな挑発と言う感じですか。
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