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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第111話 試合開始直前
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訳がない。何故なら、俺は無名の一高校生。元の世界で暮らして居た時には、水晶宮でも下っ端其の一程度の実力しか持ち得なかったのですから。
 もっとも、その水晶宮に所属して居る術者と言うのが上を見たら果てしない……それこそ天仙と言うべき、歴史上に名前を残した仙人が関わっている組織なので、其処の下っ端と言う人間でもかなりの術者と言う事になるのですが。

 例えば、この高校の教師をしている綾乃さんは、日本の裏を支配している術者養成用の特殊な学校で彼女が所属した年度の首席だったのですが、水晶宮の関係者としてはそれほど上位の人間と言う訳では有りませんから。

「あんたに手加減する理由なんてないわよ。そもそも、初めから躱されると思って全力で叩きに行っているんだから」

 先ほど、何故躱すのだ、と問い掛けた口で、その直後に躱されるのが前提で、全力で叩きに来ている、などと言う矛盾を平気で口にするハルヒ。ただ、おそらくはコッチの方がホンネ。流石に彼女が本気で叩きに行く相手は選んで居ると思います。
 当然、その程度の事で人間関係が崩れない相手。更に、明らかに自分よりも強い相手。そして何より、突然そんな事をしても怒らない相手。
 少なくとも弱い者イジメをして喜ぶような下衆ではないはずです、彼女も。

「そもそも、決勝戦を前に気合いが足りないみたいな顔をしているあんたが悪いのよ」

 こいつの言い方だと、電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも全部俺が悪いのだ。……と言う事に成りそうなのですが。
 ただ、それも本心からそう思って居る訳ではない……と思う。おそらく、そう言うコミュニケーションの方法しか知らないのでしょう。生物学的な女の子以外の存在との付き合い方と言う物を。

 まぁ、いくら彼女が本気に成って叩きに来たとしても、俺に触れる事さえ叶わないはずですから好きにさせて置けば良い。ただそれだけの事。まして、俺の方だって、女の子との適切な距離感と言う物が判って居る訳ではないのだし……。
 などと呑気に――。先ほど、朝倉涼子と話して居た時の緊張感を一瞬忘れ、呑気にそう考えを纏める俺。少なくとも気分転換と言う観点から言うのなら、コイツ……ハルヒの話し相手に成るのも悪くない。

 そう考えた瞬間、

「何か悩み事。……心配があるのなら、最初にあたしに――」

 僅かな。本当に僅かな隙間から時折垣間見せる本当の彼女。闊達で奔放な仮面の下に見え隠れする素の涼宮ハルヒと言う名前の少女が顔を覗かせ……。
 しかし、自身で言葉を切る事によって、直ぐに消して仕舞った。

 そして、

「さぁ、今度はウチの練習時間よ。ぐずぐずしてないで、あんたは何時も通りにバッティングピッチャーをしなさい!」

 今度は軽く背中を押しながら、そう言うハルヒ。
 
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