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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第111話 試合開始直前
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グを取った形で。

 もっとも、彼女の方も本気で殴ったとも思えないのですが。
 何故なら、彼女は目標物しか見えていないハルヒを押さえ付け、そのまま引っ張って行けるほどの力を発揮出来る存在。もし、彼女が本気で俺の肩をどやし付けたとしたら、一般人なら軽く数メートルは吹っ飛ばされる事となるはず。流石に其処までのパワーを秘めた一撃を真面に貰えば、いくら俺でも、こんな余裕がある態度では居られないでしょう。

 但し、

「おいおい、イタイやろうが」

 大して痛がる様子も見せず――他人から見ても口先だけで痛いと言っている事が丸分かりの態度で文句を言う俺。一応、ワザと少しよろけるような真似をして、一歩分だけ左脚を前に出して見せたのは単なるお茶目。本当はそんな事さえする必要がない程度の威力でしかありませんでしたから。
 当然、そんな事は判って居る朝倉さん。

 本当は痛くない癖に。……と小さな声で前置きをした後に、

「しっかりしなさい。男の子なのでしょ」

 貴方には期待しているんだからね。
 彼女から本気でそう言われたのなら、十人中八人までの男はシャンとするだろう、と思われる台詞を口にする朝倉さん。
 もっとも、今の彼女が発して居る雰囲気は半々ぐらいの感覚。半分ぐらいは叱咤する感じなのですが、残りの半分は少しからかうような雰囲気。

 そんな蒼髪の委員長の様子を見つめた刹那、後方より感じる殺気。
 いや、これは殺気ではない。これは活性化した精霊の気配!

 半歩、右脚を前に踏み出し、朝倉さんとの距離を三十センチ以下に。その一瞬後に、先ほどまで俺の身体が占めて居た空間を、光を帯びた華奢な左腕が淡い尾を引くように通り過ぎ、直後に巻き起こった旋風が俺の背中を叩いた。
 しかし、こいつは、どんどんと精霊を自分の意志に従わせる術を覚えつつあるな。

「何で躱しちゃうのよ」

 涼子が入れる喝は受け入れるのに、あたしのは躱しちゃうってどう言う事!

 空しく空を切った左腕を所在無げに振りながら、俺に対して普段通りのアヒル口で問い掛けて来るハルヒ。もう俺に対して笑い掛けてくれるとか、逆にデレてくれるとかと言う、普通の少女の対応を行う事もなく、常に不愉快な表情しか見せてくれない彼女。
 ただ、心の底から不機嫌かと言うとそんな事もなく――

「朝倉さんの喝は手加減されているけど、オマエの喝は間違いなく手加減されて居ないからな。そんなモンを真面に受けたら、怪我をして決勝戦に出られんように成るやろうが」

 もしも本当にそんな事に成ったのなら、全国三千万の俺のファンが哀しむ事になるからな。

 もう何処からでもツッコミオッケーと言う答えを返す俺。その三千万と言ういい加減な数字も去る事ながら、そもそも俺にファンなど居る
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