第3話 心のしこり
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ら家庭が円満なのだろうか。
仲良いしな、この2人。
前世で彼女の居なかった俺には、イラつくことこの上ない。
そういう時は、父に八つ当たりだ。
父は頑丈だから、大抵のことは問題無い。
食事も終わり、就寝の時間となった。
布団に入るが、まったく眠くないのだ。
いや、訂正。
悪夢を見そうで、寝たくないのが本音だ。
俺は布団から出ると、家の外へと出ていく。
裏にある畑の隣にある、ちょっと広い場所に歩いていく。
ここで母と鍛錬をしていた。
俺に甘いくせに、鍛錬の時はやたらと厳しい。
というか、単純に戦いを楽しんでいるといった感じだった。
鍛錬場に着くと、俺は腕を護るための手甲を嵌める。
「ふぅー……」
深呼吸した後、肺にある呼吸すべてを出し切る。
俺は右足を前に出し、右構えをとる。
これは合気道の、立ち技の時の練習の時の構えだ。
長年の癖で、自然と一重の半身になる。
これも、前世の父から叩きこまれたことだ。
右足は真っ直ぐだが、後ろにある左足の指先は外側へと向けられている。
一重の半身とは、両足の親指の付け根が一直線になる状況のことをいう。
一直線になっていない状況は、二重の半身という。
合気道では親指の付け根に重心を置くため、二重の半身だと相手とぶつかることがあるのでやることはない。
この身体に染みついた受・打・技の型をなぞっていると、不意に背後から気配を感じる。
「眠れないのか?」
「寝たくない、っていうのが本音」
「…最初はそうだ。誰でもな」
俺は型の動きを止め、満天の星で輝くを空を見上げながら答える。
同様に、母も空へと視線を向ける。
「だが、その気持ちは大事だ。人を殺めたことを後悔はするな。だが、人を殺めたということは忘れるな。今のその気持ちを忘れたら、私たちはただの人殺し。自分の欲で動く野盗と同じになる」
後悔するな。されど、忘れるな、か。
野盗とはいえ、かけがえのない命を奪ったことも事実。
これを忘れ、ただ人を殺しまわっていては獣と同じだ。
その先にあるのは、破滅だけ。
それは文字通り、身の破滅につながる。
「…もう寝るぞ。明日も早いんだからな」
母は背を向けると、家へと戻って行ってしまう。
俺の視線は空へと向けられたままだ。
前世では見ることの無かった、まさに星の海。
「…寝るか」
俺は空から視線を外すと、母の背中へと視線を移す。
先程までの沈鬱な気分は、嘘のように消えていた。
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