第141話 孫権
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動転しているようだった。
「どういう意味でしょうか?」
孫権は唾を飲み込みゆっくりと口を開いた。「母と姉を殺せるか?」と問われて「殺せます」と答えられる訳がない。だが、孫権は正宗が自分に興味を示してきた、この機会を無意味なものにしたくないと考えたのだろう。
「そのままの意味だ。私が孫家に助成した後、お前の母と姉が私を裏切る自体になった時に殺せるかと聞いているのだ」
正宗は真剣な表情で孫権を見つめていた。孫権は正宗の言葉から理解した。正宗は孫権個人は信用できると思っているのだ。ただし、信用できても正宗の信頼に応えることができるかは別物である。だからこそ正宗は孫権に裏切りの代償として母と姉の首を差し出せるかと聞いているのだ。ここで安易に「できます」と返事することはできるが、それでは正宗は孫権を信頼しないだろう。そのことを孫権も理解したのか、曇った物憂げな表情を浮かべていた。正宗は孫権のことを静かに観察していた。
「できません」
どのくらいたったであろうか。時間にして十分程度。しかし、孫権には長い時間に感じられたことだろう。彼女の表情は悩みに悩んだのか苦悶に満ちていた。彼女は絞りだすようにゆっくりと吐露した。正宗は孫権の答えを予想していたのか両目をつぶり頷くと目を見開いた。
「孫仲謀、この私が孫家に人材を斡旋すれば、私が孫家の後ろ盾になったと周囲は受け止めるであろう。荊州の諸豪族の中には貴人である私の後ろ盾を得た孫家に靡く者達もいるであろう。そうなれば荊州牧・劉景升殿も私に警戒感を示すことであろう。この意味が分かるな? 孫家は私に対して如何にして報いるつもりだ。私を裏切れば私に九族皆殺しにされようと文句はいえまい。その覚悟がお前にあるか?」
正宗は孫権を見つめながら言った。孫権は正宗のことを見つめた。正宗の話を聞き孫権は初めて正宗から人材紹介を受けることの影響の大きさを理解したようだ。
「先輩は人材を紹介してくださるのでしょうか?」
「紹介せん。孫家の南陽郡での風評が悪すぎる。お前に力を貸せば私への風当たりも強くなる」
「そうですよね」
孫権は気落ちした表情を浮かべた。
「紹介したとしても、お前は私の支援へ報いることも、母と姉が私を裏切った場合に止めることもできまい。違うか? お前は孫文台、孫伯符と比して武官というより文官であろう。お前では何もできん」
正宗は孫権に理を説いて人材紹介の話を流そうとしているように見えた。彼は孫権では孫堅と孫策の抑えになりえないと考えているだろう。事実、生粋の武闘派であり苛烈な性格である孫堅と孫策を孫権が抑えるなど不可能と言っていい。孫家に必要以上に肩入れして勢力を大きくし過ぎては後々の禍根になることは目に見えていた。それならば孫家と距離を
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