第十四章 水都市の聖女
第八話 聖竜と乙女
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は、速いっ、速すぎるっ!? あれは一体ッ?!』
「何だっ!? どうしたっ!!?」
一旦落ち着いたかと思った船員の声が、未知の存在に対する恐怖と興奮に酷く乱れる。それは司令官の怒声でも効果がなかった。
『ふ、船? りゅ、竜? い、一体何なんだッ!?』
「―――っ」
「艦長っ!?」
命令に反応しない物見の船員の呆然とした声に、司令官は苛立ったように伝令管を殴りつける。予想外の何かが起きたのだろう事は直ぐに察した。平時から船員には報告の重要性についてはしつこい程に厳命していた。それを理解していない者はこの船にはいないと知っている司令官は、それでも対応出来ない何かが起きたと直感した。そしてその直感が外れた事はなく。本能の赴くまま、司令官は老境に差し掛かろうという歳を感じさせない身のこなしで素早く司令室を飛び出していった。数瞬の間を置き、その後を状況に気付いた部下たちが慌てて追いかけ始めた。
息を切らしながらも何とか甲板に繋がる扉へと辿り着いた司令官が、扉に手を掛けた状態で深く息を吸い呼吸を整えた。
厚い扉を超えて、甲板上から声が聞こえる。空に響く魔法や大砲が撃った弾が飛びかう音を圧する程の声。
聞こえてくる声は、恐怖や悲鳴に彩られてはいない。
それはまるで、偉大な存在を目にしたかのような畏怖と驚愕に満ちていた。
司令官の心臓が走ったことによるものとは別の理由から大きく一度高鳴った。
予感がする。
この扉を開けるととんでもないモノが見れると。
背後から部下たちが走り寄ってくる音を聞きながら、司令官は大きく一度深呼吸すると扉に掛けた手に力を込めた。
両用艦隊旗艦“シャルル・オルレアン”号の甲板上で、この艦隊の司令官であるクラヴィル卿が、苛立たしげに先程から足裏で甲板を叩き続けていた。不満に歪んだ口元からは、押し潰された唸り声が漏れ聞こえている。
「〜〜〜っ、何故未だにロマリアの船が一隻も落ちんのだッ!!?」
一際強く甲板に足裏を叩きつけたクラヴィル卿が吠えると、隣に控えるリュジニャン子爵が煤で汚れた頬を手の甲で拭いながら疲れたように溜め息を着いた。
「色々と理由は考えられますが、一番の問題は士気の違いかと思われますな」
「……士気の違い、か」
クラヴィル卿が苦々しく言い放つと、上等な仕立ての軍服に付いた返り血を見下ろした。
「俺とて陛下の命令の意味など分からんし、納得もいっているわけでもない。砲甲板の奴らが反乱を起こした気持ちも分かんでもない」
顔を顰めたクラヴィル卿は、砲撃や魔法により薄く煙る空へと顔を向けた。
戦いによる汚れで霞んでいるが、それでも十分以上に美しい空であった。
抜けるように何処までも青い空を見
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